「痩せたいのに動けない」は意志が弱いせいじゃない|前熟考期・熟考期
「痩せた方がいいのはわかっている。でも、今の生活を変えるのは面倒」——そう思いながら、何も変わらない毎日が続く。
そんな自分を「意志が弱い」「本気で痩せたいと思っていないんだ」と、つい責めてしまってはいないでしょうか。
前回の記事では、行動変容ステージモデル(TTM)の全体像を紹介しました。今回はその中でも最初の2つの段階——前熟考期と熟考期——に絞り込み、「なぜ動けないのか」、そして「自分を責めることがなぜ解決にならないのか」を見ていきます。
1. 前熟考期と熟考期は、実は「別の場所」
前回整理した通り、この2つの段階には明確な違いがあります。
- 前熟考期:変化の必要性そのものを自覚していない状態
- 熟考期:必要性は感じているが、まだ行動していない状態
この違いは、「自覚があるかないか」以上の意味を持ちます(1)。前熟考期にいる人は、家族や職場からのプレッシャーで一時的に行動が変わることがあっても、そのプレッシャーが外れると元に戻りやすいという特徴があるとされています。つまり前熟考期での「変化」は、本人の内側から出たものというより、外側からの圧力への一時的な反応である可能性が高いということです。
一方、熟考期はすでに「変わった方がいいかもしれない」という気持ちが自分の中に芽生えている段階です。ここで必要なアプローチは、前熟考期とは違います。前熟考期の人にいきなり「今日から始めましょう」と迫っても響きにくいのと同じように、熟考期の人に対して「なぜ問題なのか」を延々と説明し続けても、あまり効果はないと考えられます。
2. 熟考期の「揺れる気持ち」は、異常ではない
熟考期にいる人の内側では、変化のメリットとデメリットが天秤にかけられています。これは前回の記事で紹介した意思決定バランスそのものです。この「メリットとデメリットを同時に天秤にかけている状態」は、心理学では両価性(アンビバレンス)とも呼ばれ、熟考期の中心的な特徴とされています(1)。意思決定バランスは、この両価性という心理状態を測るためのものさし、と考えると整理しやすいかもしれません。
重要なのは、この揺れる気持ちそのものが「決断力がない」ことの証拠ではなく、多くの人が経験する正常な通過点だという点です。「痩せたいけど、今の生活も手放したくない」——この2つの気持ちが同時に存在すること自体は、矛盾でも失敗でもありません。
3. 「自分を責めればなんとかなる」わけではない理由
「自分を追い込めば行動できるはず」——そう考えて、自分を厳しく責めることでやる気を引き出そうとする人は少なくありません。しかし、複数の研究は、この戦略が単純にプラスに働くわけではないことを示しています。
減量に取り組み始めた成人91名を14日間追跡した調査があります。次のことがわかりました(2)。
- 否定的すぎる自己評価の人だけでなく、肯定的すぎる自己評価の人も、目標から外れやすい
- 自分に対していつもより厳しくない日に、目標から外れやすい——直感とは逆の結果
つまり自己評価が極端に振れること自体(否定的にも、肯定的にも)がリスクになりうる、ということがわかります。
もう一つ、体重や体型に関する自己スティグマ(社会の否定的な体重観を、自分自身にも当てはめてしまうこと)についての研究も参考になります。
74件の研究をまとめたレビューでは、この自己スティグマが強い人ほど、抑うつ・不安・自尊心の低下といったメンタルヘルスの悪化と結びつきやすいことが、多くの研究で共通して確認されています(3)。
さらに別の研究では、自己スティグマが強い人ほど、実際に嫌な経験をしたときに運動を避けやすくなることもわかっています(4)。自己スティグマが弱い人では、この傾向は見られませんでした。つまり自己スティグマは単独で運動嫌いを引き起こすというより、外からの否定的な経験の悪影響を増幅させる方向に働くと考えられます。
なお「やる気の質」については、以前の記事『ダイエットが続く条件』で詳しく扱っています。今回の自己批判の話は、それとは違う角度——「自分自身への評価」の問題です。
4. 「ココロの天秤」を使うときに知っておきたいこと
このシリーズでは、変化のメリット・デメリットを整理するツール(ココロの天秤)を用意しています。熟考期の揺れる気持ちを可視化するのに役立つ一方で、使い方には一つ注意しておきたい点があります。
意思決定バランスに関する複数の臨床研究をレビューした論文では、次のようなことが報告されています(5)。
- まだ決心がついていない人が、メリット・デメリットを均等に見つめ直すと、変化へのコミットメントがかえって低下する傾向が複数の研究で示されている
- 一方、すでに変わる決心をしている人が同じことをすると、コミットメントがむしろ強化される傾向がある
- こうした研究をもとに、動機づけ面接という手法の最新の考え方では、まだ迷っている人に対してこのやり方を使うことを勧めない方針が取られている(5)
つまり、まだ気持ちが定まっていない段階で「メリットとデメリットを均等に見つめ直す」という行為は、かえって「今のままでいい理由」を再確認させてしまい、動き出す力を弱めてしまう可能性がある、ということです。
この知見を踏まえると、「ココロの天秤」というツールは、天秤の傾き自体を「答え」として受け取るためのものではなく、自分の中にある気持ちを言葉にして眺めてみるための道具として捉えるのが良さそうです。天秤が「変わりたい理由」に傾いても「今のままでいい理由」に傾いても、それ自体が良い・悪いを意味するわけではありません。
5. この段階でできる、小さな一歩
前熟考期・熟考期にいる段階では、「今日から食事を変える」「今日から運動を始める」といった目標は、まだ早いかもしれません。この段階で意味を持つのは、むしろ次のような小さな一歩です。
- 今の食事や生活習慣を、良し悪しの判断を挟まずにただ記録してみる
- 「変わりたい理由」「今のままでいい理由」を、誰かに見せるためではなく自分のために書き出してみる
- すぐに結論を出そうとせず、今の自分の気持ちをそのまま眺めてみる
行動そのものを変える前に、まず自分の状態に気づくこと。それが、次の段階への土台になります。
6. まとめ
前熟考期と熟考期は、どちらも「動けていない」ように見えて、中身は違います。前熟考期はまだ必要性に気づいていない段階、熟考期はメリット・デメリットの間で揺れている段階です。
この揺れる気持ち(両価性)は、異常でも意志の弱さでもなく、多くの人が通る正常なプロセスです。むしろ自分を厳しく責めることの方が、極端な自己評価や自己スティグマを通じて、行動の妨げになりうることが研究からわかっています。
「動けない自分」を責めても、動きやすくなるわけではありません。むしろ今は、動けていない自分をそのまま眺めてみる段階なのだと思います。
参考文献(一次資料)
- Prochaska, J. O., DiClemente, C. C., & Norcross, J. C. (1992). In search of how people change: Applications to addictive behaviors. American Psychologist, 47(9), 1102–1114. https://doi.org/10.1037/0003-066X.47.9.1102
- Schumacher, L. M., Martin, G. J., Goldstein, S. P., Manasse, S. M., Crosby, R. D., Butryn, M. L., Lillis, J., & Forman, E. M. (2018). Ecological momentary assessment of self-attitudes in response to dietary lapses. Health Psychology, 37(2), 148–152. https://doi.org/10.1037/hea0000565
- Pearl, R. L., & Puhl, R. M. (2018). Weight bias internalization and health: A systematic review. Obesity Reviews, 19(8), 1141–1163. https://doi.org/10.1111/obr.12701
- Vartanian, L. R., & Novak, S. A. (2011). Internalized societal attitudes moderate the impact of weight stigma on avoidance of exercise. Obesity, 19(4), 757–762. https://doi.org/10.1038/oby.2010.234
- Miller, W. R., & Rose, G. S. (2013). Motivational Interviewing and Decisional Balance: Contrasting Responses to Client Ambivalence. Behavioural and Cognitive Psychotherapy, 43(2), 129–141. https://doi.org/10.1017/S1352465813000878

