ダイエットが続かないのは意志が弱いからじゃない — 行動変容の段階から考える
「痩せなきゃ」と思いながら、何もできない日が続く。
そんな自分を「意志が弱い」と責めていないでしょうか。
心理学の世界では、人が行動を変えるとき、いきなり実行に移るわけではなく、いくつかの決まった段階を経ることが知られています。これは行動変容ステージモデル(Transtheoretical Model)と呼ばれ、もともとは禁煙研究から生まれた理論です(1)。その後、体重管理を含む12種類の問題行動に対しても、共通した構造が確認されています(2)。
つまり、「痩せたいのに動けない」状態は、多くの人が通る過程の一部である可能性があります。今回は、この理論を使って、ダイエットにおける段階と、それぞれで起きていることを整理します。
行動変容ステージモデルとは
行動変容ステージモデルは、人が問題行動(喫煙・過食など)を変えていく過程を、以下の段階に分けて説明する理論です(1)。
| 段階 | 特徴 | 目安となる状態(4) |
|---|---|---|
| ① 前熟考期(無関心期) | 変化の必要性を自覚していない | 6ヶ月以内に行動を変えようと思っていない |
| ② 熟考期(関心期) | 必要性は感じるが行動していない | 6ヶ月以内に行動を変えようと思っている |
| ③ 準備期 | 近いうちに始めようと決めている | 1ヶ月以内に行動を変えようと思っている |
| ④ 実行期 | 実際に行動を変えている | 行動を変えて6ヶ月未満である |
| ⑤ 維持期 | 新しい行動が定着しつつある | 行動を変えて6ヶ月以上である |
※ このほかに「再発」という状態がありますが、これは独立した段階というより、
どの段階からでも起こりうる後戻りのプロセスとして位置づけられています(3)。
準備期は当初、データ解析上の見落としにより省かれていましたが、後の研究で熟考期と実行期の両方の性質を併せ持つ独立したグループの存在が確認され、5番目の段階として位置づけ直されました(3)。また同じ研究では、変化は一直線には進まず「らせん状(スパイラル)」に進むことが指摘されており、後戻り(再発)はこのプロセスに組み込まれた自然な動きとして説明されています(3)。
なおこの枠組みは学術研究の中だけのものではありません。厚生労働省のe-ヘルスネットでも、「無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期」という同様の5段階モデルが紹介されており(4)、特定保健指導の制度設計そのものにも、対象者が自ら課題に気づき行動変容の方向性を導き出せるよう支援するという考え方が組み込まれています(5)。
なお上表の判定基準は「行動」を対象にした汎用的な定義です。e-ヘルスネットでは身体活動(「+10(プラステン)」という運動習慣)を例に、この基準を当てはめて判定する方法が紹介されています(4)。同様に、この記事では「行動」を食事や体重管理に関する行動に置き換えて判定する形をとります。
それぞれの段階で起きていること
① 前熟考期:自覚がない段階
体型や健康について、特に問題を感じていない状態です。周囲から指摘されても「別に困っていない」と感じることもあります。
② 熟考期:天秤にかけている段階
「痩せた方がいいのはわかっている。でも、今の生活を変えるのは面倒」——このように、変化のメリットとデメリットを頭の中で比較している状態です。この比較は心理学では意思決定バランス(decisional balance)と呼ばれ、体重管理を含む複数の行動領域で確認されている概念です(2)。
③ 準備期:動き出す直前の段階
「来月から始めよう」「体重計を買った」など、小さな準備行動が見られる段階です。
④ 実行期:実際に行動している段階
食事や運動を実際に変えている状態です。最もモチベーション管理が必要とされる時期でもあります。
⑤ 維持期:定着させる段階
新しい習慣が半年以上続き、安定してきた状態です。
「再発」は段階ではなく、プロセスとして起こる
多くの人が経験する、後戻りのプロセスです。この理論の重要な点は、変化は一直線には進まず、行きつ戻りつしながら進む「らせん状」のプロセスだとされていることです。再発を繰り返す人の多くは、同じところを無限に回り続けるわけでも、最初の地点まで完全に後退するわけでもなく、段階を再び巡るたびにそこから学び、次は違うやり方を試すことができるとされています(3)。一度戻ってしまっても、それはプロセスの一部と捉えられます。
自分が今どの段階にいるか、簡易チェック
- 「痩せた方がいいと思ったことすらない」→ 前熟考期
- 「痩せたいとは思うが、まだ何もしていない」→ 熟考期
- 「近いうちに何か始めようと決めている」→ 準備期
- 「今まさに食事や運動を変えている」→ 実行期
- 「新しい習慣が半年以上続いている」→ 維持期
- 「一度は変えたが、また元に戻ってしまった」→ 再発(次の熟考期・準備期への入り口として捉え直せます)
なぜ「今の段階に合わない情報」は響かないのか
前熟考期・熟考期にいる人に対して、いきなり「PFCバランスを整えましょう」「レジスタンストレーニングを始めましょう」といった実行期向けの情報を提示しても、行動にはつながりにくいと考えられます。段階が違えば、必要なアプローチも異なるためです。
これは特定保健指導の設計にも通じる考え方で、対象者の状態に応じて「情報提供」「動機づけ支援」「積極的支援」と区分してアプローチを変える仕組みが取られています(5)。
このシリーズでは、今後各段階について個別に深掘りしていきます。
- 前熟考期・熟考期:動けない自分を責める前に知っておきたいこと
- 準備期:痩せると決めた日から何をすべきか
- 実行期:挫折しやすい時期の具体的な乗り越え方
- 維持期:リバウンドとどう向き合うか(準備中)
この理論の限界について
行動変容ステージモデルは、人がどのように変化していくかを説明する理論としては広く使われていますが、「このモデルに沿って介入すれば必ず減量効果が出る」というわけではない点には注意が必要です。過体重・肥満の成人を対象にした系統的レビューでは、この理論を用いた食事・運動介入について、バイアスリスクや精度不足のため確固たる効果を結論づけられていません(6)。
この記事はあくまで「なぜ段階的に取り組む必要があるのか」という考え方の土台として理論を紹介するものであり、効果を保証するものではありません。
出典
- Prochaska, J. O., & DiClemente, C. C. (1983). Stages and processes of self-change of smoking: Toward an integrative model of change. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 51(3), 390–395. https://doi.org/10.1037/0022-006X.51.3.390
- Prochaska, J. O., Velicer, W. F., Rossi, J. S., Goldstein, M. G., Marcus, B. H., Rakowski, W., Fiore, C., Harlow, L. L., Redding, C. A., Rosenbloom, D., & Rossi, S. R. (1994). Stages of change and decisional balance for 12 problem behaviors. Health Psychology, 13(1), 39–46. https://doi.org/10.1037/0278-6133.13.1.39
- Prochaska, J. O., DiClemente, C. C., & Norcross, J. C. (1992). In search of how people change: Applications to addictive behaviors. American Psychologist, 47(9), 1102–1114. https://doi.org/10.1037/0003-066X.47.9.1102(準備期を5番目の段階として位置づけ直した経緯、および「らせん状モデル」の説明が含まれる)
- 行動変容ステージモデル. e-ヘルスネット(厚生労働省). https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-07-001
- 標準的な健診・保健指導プログラム(確定版). 厚生労働省生活習慣病対策室. https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu/pdf/ikk-a.pdf
- Mastellos, N., Gunn, L. H., Felix, L. M., Car, J., & Majeed, A. (2014). Transtheoretical model stages of change for dietary and physical exercise modification in weight loss management for overweight and obese adults. Cochrane Database of Systematic Reviews, 2, CD008066. https://doi.org/10.1002/14651858.CD008066.pub3

