ダイエット

なぜ停滞期に代謝が落ちるのか? 質量減少では説明できないメカニズムを一次文献から解説

減量停滞と代謝低下のイラスト
むー

はじめに

以前の記事「ダイエットの停滞期って本当にあるの? 科学的な根拠を調べてみた」では、ダイエット中に消費カロリーが予測より少なくなる現象(適応性熱産生)が、CALERIE試験などの一次資料から確認できることを紹介しました。

今回はその続きとして、「存在するかどうか」ではなく、「なぜ、どういう経路でそれが起こるのか。そして、ダイエットをやめた後もそれが続くのか」という一歩踏み込んだ話をします。

なお、これは加齢による基礎代謝の低下(以前の記事「「代謝が落ちた」は思い込み?」で扱ったテーマ)とは別の現象です。あちらは「年齢を重ねただけで代謝が落ちるわけではない」という話でしたが、今回扱うのは「ダイエット(カロリー制限)によって、体重の減り方だけでは説明できない分の代謝低下が起こる」という、原因の異なる話です。

1. 代謝適応とは何か

体重が減れば、体を動かすのに必要なエネルギーも小さくなるので、消費カロリーが減ること自体は当然です。問題は、体の大きさ(除脂肪体重=脂肪を除いた、筋肉や骨、内臓などの重さ)の変化だけでは説明がつかない分だけ、消費カロリーが余分に減ることがある、という点です。

この現象を実証した最も基本的な研究が、Leibel, Rosenbaum & Hirsch(1995年、NEJM)です。この研究では、肥満のある人・ない人あわせて41人を対象に、意図的に体重を10〜20%減らしたり、逆に10%増やしたりして、そのときのエネルギー消費量を詳しく調べました。

結果、体重を10%以上減らして維持した場合、除脂肪体重1kgあたり平均で約6±3kcal/日、予測よりも消費カロリーが少なくなることが分かりました。この研究は現在までに2,000件以上引用されており、この分野の議論の出発点になっている研究です。

2. なぜ質量減少以上に代謝が落ちるのか(メカニズム)

では、なぜ「質量が減った分」を超えて消費カロリーが減るのでしょうか。この点を包括的に整理したのが、Trexler, Smith-Ryan & Norton(2014年)によるレビューです。主に次のような経路が関わっているとされています。

甲状腺ホルモン(T3)の低下
のどにある甲状腺から出るホルモンのうち、T3(トリヨードサイロニン)と呼ばれるものは、代謝率を直接調整する働きを持っています。カロリー制限が続くとこのT3の血中濃度が下がり、体の中で熱を作り出す働き(熱産生)が抑えられる方向に働きます。

骨格筋のエネルギー効率の変化
体重が減った状態では、同じ運動をしても、筋肉がより少ないエネルギーで動けるように”効率化”することが報告されています。これは一見よいことのようですが、ダイエットの文脈では「同じ運動をしても消費カロリーが減る」ことを意味します。

レプチンというホルモンの関与
これらの変化の背後には、脂肪細胞から分泌されるホルモン「レプチン」の低下が関わっていると考えられています。体脂肪が減るとレプチンの血中濃度も下がり、それが引き金となって上記のT3低下が引き起こされる、という説明です。

そして、このレプチンは、実はもう一つ別の経路にも関わっています。それが次の「食欲」の話です。

3. 消費が減るだけでなく、食欲も変わる

レプチンには、脳に対して「エネルギーが足りている」と伝え、食欲を抑える働きもあります。つまり、ダイエットでレプチンが下がるということは、「消費カロリーを減らす」方向だけでなく、「お腹が空きやすくなる」方向にも働くということです。

この点を長期にわたって確認したのが、Sumithran et al.(2011年、NEJM)です。50人の過体重・肥満の人を対象に、10週間の低カロリー食プログラムを行い、その後1年間(62週後)まで、レプチンやグレリン(食欲を高めるホルモン)など複数のホルモンの血中濃度を追跡しました。

その結果、体重が減った1年後の時点でも、これらの食欲関連ホルモンの多くはダイエット前の水準に戻っていませんでした。つまり、「代謝が落ちて消費カロリーが減る」ことと、「お腹が空きやすい状態が続く」ことは、同時に、しかも長期間にわたって起こりうるということです。

なお、この研究が確認しているのは1年後までのデータです。この食欲ホルモン側の変化が、1年より先も続くのかどうかについては、今回参照した文献セットの範囲では分かっていません。

4. ダイエット”後”も代謝適応は続くのか

では、ダイエットを終えて体重が安定したあとも、この代謝適応は残り続けるのでしょうか。この点については、研究によって結果が分かれています。

極端な例:Biggest Loserの6年後追跡調査

Fothergill et al.(2016年、Obesity誌)は、アメリカの減量コンテスト番組「The Biggest Loser」の参加者を、番組終了から6年後まで追跡調査しました。その結果、参加者の多くが体重の約70%をリバウンドしていたにもかかわらず、代謝適応(予測よりも低い消費カロリー)は6年後の時点でも持続していました

系統的レビューが示す、より一般的な傾向

一方、Nunes et al.(2022年、British Journal of Nutrition)は、これまでに発表された研究をまとめて評価する「系統的レビュー」という手法で、33件の研究(参加者2,528人)を検証しました。33件中27件で代謝適応が確認されたものの、方法論の質が高い研究に限ると、その効果量は小さいか統計的に有意でない場合があること、また体重が安定した(維持期に入った)後は、代謝適応が減弱するか、消失する傾向があることを報告しています。

2つの結果をどう理解するか

一見矛盾するようですが、これは「どちらかが間違っている」という話ではなく、対象や測定期間の違いを反映している可能性があります。Biggest Loserは非常に極端な減量(平均で体重の40%近く)を伴う特殊な例である一方、Nunes 2022が対象にした33研究は、より一般的な減量介入が中心です。測定期間も、Fothergillが6年という長期であるのに対し、Nunes 2022がまとめた研究の多くはそれよりも短い期間の観察です。

なお、以前の記事で紹介したCALERIE試験のデータは、あくまで「ダイエットを続けている最中」の話でした。ここで扱っているのは、それとは異なる「ダイエットを終えて体重を安定させた後」の話である点にご注意ください。

現時点で言えるのは、「体重を維持すれば代謝適応は必ず消える」とも、「一度落ちた代謝は一生戻らない」とも、どちらも言い切れるだけの一致した証拠はない、ということです。

まとめ

疑問答え
なぜ質量減少以上に代謝が落ちるのかT3(甲状腺ホルモン)低下・骨格筋の効率変化などが関わっており、その背景にはレプチンの低下があると考えられている
消費が減るだけなのかいいえ。同じレプチンの低下が、食欲を高める方向にも働く(レプチン・グレリンなどの変化が1年後も残る)
ダイエットをやめれば元に戻るのか研究によって結果が分かれる。極端な減量例では6年後も持続したという報告がある一方、系統的レビューでは体重安定後に減弱する傾向も報告されている

停滞期における代謝の低下は、意志の弱さのせいではなく、複数のホルモンが関わる生理的な反応だと考えられます。実践的な対策については、「NEATの増やし方」や「リバウンド予防」の記事もあわせてご覧ください。


参考文献

  • Leibel, R. L., Rosenbaum, M., & Hirsch, J. (1995). Changes in energy expenditure resulting from altered body weight. New England Journal of Medicine, 332(10), 621-628. https://doi.org/10.1056/NEJM199503093321001
  • Trexler, E. T., Smith-Ryan, A. E., & Norton, L. E. (2014). Metabolic adaptation to weight loss: implications for the athlete. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 11, 7. https://doi.org/10.1186/1550-2783-11-7
  • Sumithran, P., Prendergast, L. A., Delbridge, E., Purcell, K., Shulkes, A., Kriketos, A., & Proietto, J. (2011). Long-term persistence of hormonal adaptations to weight loss. New England Journal of Medicine, 365(17), 1597-1604. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1105816
  • Fothergill, E., Guo, J., Howard, L., Kerns, J. C., Knuth, N. D., Brychta, R., Chen, K. Y., Skarulis, M. C., Walter, M., Walter, P. J., & Hall, K. D. (2016). Persistent metabolic adaptation 6 years after “The Biggest Loser” competition. Obesity, 24(8), 1612-1619. https://doi.org/10.1002/oby.21538
  • Nunes, C. L., Casanova, N., Francisco, R., Bosy-Westphal, A., Hopkins, M., Sardinha, L. B., & Silva, A. M. (2022). Does adaptive thermogenesis occur after weight loss in adults? A systematic review. British Journal of Nutrition, 127(3), 451-469. https://doi.org/10.1017/S0007114521001094

本記事は上記一次資料の内容をもとに執筆しています。個別の数値や研究デザインの詳細については、原文でのご確認を推奨します。

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歯科医師・ブロガー
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