NEAT(非運動性熱産生)を日常で増やす方法 ― エビデンスに基づく実践ガイド
「そんなに食べていないのに、なんだか太りやすくなった気がする」——そう感じたことはありませんか。
以前の記事「現代人はなぜ太るのか?研究データから見る4つの理由」では、その理由の一つとして「NEAT(ニート)の低下」を取り上げました。**NEATとは、運動のように意識して体を動かすのではなく、立つ・歩く・家事をするといった、日常のちょっとした動きで消費されるエネルギーのことです。**デスクワークが増え、身の回りが便利になったことで、このNEATが社会全体として減ってきている、という話でした。
前回は「なぜ減っているのか」という原因の話が中心だったので、今回は視点を変えて、**「では、NEATをどう増やせばいいのか」**を具体的に見ていきます。「階段を使う」「一駅分歩く」といった基本的な工夫は前回も軽く紹介しましたが、今回はその一歩先――どのくらい効果が期待できるのか、職場でできる工夫、そして「増やそうとしても実は増えていない」という落とし穴まで、研究データをもとに整理します。
1. NEATを増やすと、実際どのくらい違うのか
前回の記事でも触れましたが、Levineさんたちが1999年に発表した研究で、興味深いことがわかっています。参加者に8週間、必要以上に食べてもらう実験をしたところ、太り方には大きな個人差が出ました。そして、その差を説明する一番の要因が、NEATがどれだけ増えたかだったのです。同じだけ食べ過ぎても、無意識によく動ける人は太りにくいということですね。
ここでは、この差が実際どのくらいの数字になるのか、もう少し具体的に見ていきます。
座っている時間の差だけで、1日350kcal相当(推定)
2005年、同じLevineさんのグループが、こんな実験をしました。肥満気味の人10人と、痩せ型の人10人に、体にセンサーをつけてもらい、10日間、0.5秒おきに姿勢を記録したのです。
結果は、肥満気味のグループのほうが、痩せ型のグループより平均で1日2時間も長く座っていたことがわかりました。
論文では、「もし肥満気味の人が、痩せ型の人と同じくらい体を動かす生活に変えたら、1日あたり350kcalほど多く消費できるはずだ」という推定も示されています。350kcalというと、ご飯茶碗1杯半くらいのカロリーです。ただしこれは、あくまで「こうなるはずだ」という推定の数字であり、実際に測って確かめられたものではありません。とはいえ、「座っている時間」というだけで、これほどのカロリー差につながりうるというのは、なかなか驚きのデータです。
理論上は、最大2000kcal分にもなる?
Mayo Clinicのグループが2015年にまとめたレビューでは、立つ・歩く・家事をするといったNEATにあたる活動を目一杯行った場合、基礎代謝(何もしなくても消費されるカロリー)に上乗せして、理論上は1日最大2000kcal分ものエネルギーを消費できる可能性があるとされています。
ただし、これには少し注意が必要です。この数字は、「体重82kg・BMI32の45歳女性が、座る時間を減らして毎日の動きを増やしていったら、3ヶ月でBMIが27まで下がる」という、あくまで1つの例として計算された理論上のシミュレーションです。実際にこの通りの効果が出た臨床試験があるわけではありません。個人差も大きいので、「自分もこれだけ効果が出るはずだ」と期待しすぎず、「うまくいけばこのくらいまで見込める上限」くらいに捉えておくのがちょうどいいでしょう。
2. 国や専門機関も「座りすぎ」に注目している
NEATを増やすことの大切さは、研究の世界だけでなく、公的な指針でもはっきり位置づけられています。
厚生労働省が新しく打ち出した「座位行動」という考え方
厚生労働省が2024年1月に発表した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、新しく**「座位行動」**という言葉が登場しました。座ったり寝転んだりして、ほとんどエネルギーを使わない状態で過ごす時間のことです。デスクワークやスマホ・テレビを見ている時間などが当てはまります。
このガイドの成人向け推奨シートには、こんな目標が書かれています。
- 1日60分以上の歩行(またはそれと同じくらいの強さの活動)。歩数にすると、だいたい1日8,000歩に相当
- 座っている時間が長くなりすぎないよう気をつける(立つのが難しい人も、できる範囲で少しでも体を動かす)
ここでのポイントは、「運動をしているから大丈夫」ではないということです。運動する時間とは別に、座っている時間そのものを減らすことが、独立した目標として掲げられています。
アメリカのACSMも「座りすぎは運動不足とは別問題」と指摘
アメリカスポーツ医学会(ACSM)が2011年に出した運動処方に関するガイドラインでも、同じような指摘があります。座りっぱなしの状態(デスクワーク、テレビ視聴、パソコン作業など)は、運動不足とは別の、それ自体が健康リスクになりうるものだとされているのです。つまり、しっかり運動する習慣があっても、それだけでは座りすぎを帳消しにはできない、ということですね。
なお、こちらのACSMの文書は、以前ご紹介した「リバウンド予防」の記事で扱ったACSMの資料(運動量と体重維持についてのもの)とは別の文書です。ACSMはテーマごとにいくつもガイドラインを出しているので、少しややこしいのですが、今回引用しているのは「運動の処方全般」について書かれた文書になります。
3. 具体的に何をすればいいのか
ここからは、実際にNEATを増やすための工夫を見ていきます。「階段を使う」「一駅分歩く」といった基本はすでに前回触れているので、ここではもう少し踏み込んだ内容を紹介します。
立ちながら作業する
職場でのNEATについてまとめた2022年のレビューでは、立って使うスタンディングデスクや、歩きながら作業できる机、座ったままペダルを漕げる器具など、いろいろな工夫が紹介されています。
ただ、正直にお伝えすると、こうした工夫の効果は研究によってばらつきがあります。例えば、教室にスタンディングデスクを導入した小さな研究では、歩数が増える傾向は見られたものの、統計的にはっきりした差とまでは言えなかった、という報告もあります。「導入すれば必ず効果が出る」というより、「コツコツ続ければ、いつか積み重なってくるかもしれない」くらいの気持ちで取り入れるのが適切です。
家事や日常の動作を、あえて労力のかかるほうで
先ほどのMayo Clinicのレビューでは、洗濯を手洗いにする、エレベーターより階段を使うといった、あえて手間のかかるほうを選ぶことも、まとまったエネルギー消費につながると紹介されています。洗濯機や食洗機のような便利な家電が広まったこと自体が、実はNEATを減らしてきた一因でもある、という裏返しの発想です。
貧乏ゆすりのような、こまめな動き
Levineさんたちの1999年の研究では、NEATを構成する要素の一つとして「fidgeting(フィジェティング)」、つまり貧乏ゆすりのような無意識のこまめな動きが挙げられています。座ったままでも、時々姿勢を変えたり、軽く体を揺らしたりすることが、少しずつ積み重なっていくということですね。
職場全体の環境を変える
個人の工夫だけでなく、職場そのものの仕組みを変えるという方向性もあります。先ほどのレビューでは、こうした環境づくりを組織として取り入れることで、座っている時間を減らせる可能性が示されています。一人ひとりの意志に頼るより、そもそも座りにくく・動きやすい環境を作ってしまうほうが、続けやすいという考え方です。
4. 気をつけたいこと:増やしたつもりが、増えていないことがある
ここまでNEATを増やす工夫を紹介してきましたが、一つだけ、知っておいてほしいことがあります。
Silvaさんたちが2018年に発表した系統的レビュー(複数の研究をまとめて検証したもの)では、ダイエットのための食事制限や運動を行った36件の研究、合計1,561人分のデータを分析した結果、意識して活動量を増やそうとしても、無意識のうちに他の場面での活動量が減ってしまうケースがあることが報告されています。これは「行動代償」と呼ばれる現象です。
たとえば、「今日はしっかり運動したから」と思うと、無意識に一日の残りの時間はあまり動かなくなってしまう、といったことが起こりえます。NEATを増やそうと意識するときは、実際にちゃんと増えているか、歩数計やスマートフォンのアプリなどで時々確認してみることをおすすめします。
5. 続けるコツは、大きな決意より小さな仕組みづくり
NEATを増やす工夫は、どれも地味なぶん、続けようと思ってもいつの間にか忘れてしまいがちです。ここで役立つのが、以前「準備期」の記事で紹介したif-thenプランという考え方です。
「もし〇〇になったら、△△する」というふうに、**状況と行動をあらかじめセットで決めておくことで、実際に行動に移せる確率が上がることがわかっています。**これをNEATに当てはめると、例えばこんな形になります。
| こんな時(If) | こうする(Then) |
|---|---|
| 会議の合間に少し時間ができたら | 席を立って軽く伸びをする、少し歩く |
| 音声だけの電話やオンライン会議なら | 立ったまま、または部屋の中を歩きながら話す |
| テレビのCMになったら | 一度立ち上がって、その場で足踏みする |
| 電車やバスに乗る前 | 一駅分だけ歩くルートを選ぶ |
「よし、NEATを増やすぞ」と気合を入れるより、こういう小さな「もしも」のパターンを2つ3つ決めておくほうが、意外と長続きします。
まとめ
- NEATの個人差は、体脂肪のつきやすさに大きく関わっている。 座っている時間の差だけでも、1日あたり数百kcal相当の違い(推定)につながる可能性がある
- 厚生労働省もACSMも、座りすぎそのものを、運動不足とは別の問題として位置づけている
- 具体的には、立って作業する・あえて手間のかかる家事をする・こまめに動く・職場環境を見直す、といった方法があるが、効果には個人差や研究間のばらつきがある
- 「増やそうとしても、実は増えていない」ということが起こりうるので、時々チェックするのがおすすめ
- 続けるコツは、大きな決意よりも、if-thenプランのような小さな仕組みづくり
NEATは、運動のように「気合を入れて行う」ものではなく、生活の中に少しずつ溶け込ませていくものです。完璧を目指さず、できるところから始めてみてください。
参考文献
- Levine JA, Eberhardt NL, Jensen MD. Role of nonexercise activity thermogenesis in resistance to fat gain in humans. Science. 1999;283(5399):212-214. https://doi.org/10.1126/science.283.5399.212
- Levine JA, Lanningham-Foster LM, McCrady SK, Krizan AC, Olson LR, Kane PH, Jensen MD, Clark MM. Interindividual variation in posture allocation: possible role in human obesity. Science. 2005;307(5709):584-586. https://doi.org/10.1126/science.1106561
- Villablanca PA, Alegria JR, Mookadam F, Holmes DR Jr, Wright RS, Levine JA. Nonexercise activity thermogenesis in obesity management. Mayo Clinic Proceedings. 2015;90(4):509-519. https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2015.02.001
- Garber CE, Blissmer B, Deschenes MR, Franklin BA, Lamonte MJ, Lee IM, Nieman DC, Swain DP; American College of Sports Medicine. Quantity and quality of exercise for developing and maintaining cardiorespiratory, musculoskeletal, and neuromotor fitness in apparently healthy adults: guidance for prescribing exercise. Medicine & Science in Sports & Exercise. 2011;43(7):1334-1359. https://doi.org/10.1249/MSS.0b013e318213fefb
- Rizzato A, Marcolin G, Paoli A. Non-exercise activity thermogenesis in the workplace: The office is on fire. Frontiers in Public Health. 2022;10:1024856. https://doi.org/10.3389/fpubh.2022.1024856
- Silva AM, Júdice PB, Carraça EV, King N, Teixeira PJ, Sardinha LB. What is the effect of diet and/or exercise interventions on behavioural compensation in non-exercise physical activity and related energy expenditure of free-living adults? A systematic review. British Journal of Nutrition. 2018;119(12):1327-1345. https://doi.org/10.1017/S000711451800096X
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」推奨シート:成人版. https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-00-002.html
本記事は上記一次資料の内容をもとに執筆しています。個別の数値や研究デザインの詳細については、原文でのご確認を推奨します。

