ダイエット

ダイエットに理想的な睡眠時間は?「7時間以上」の根拠を科学的に検証

静かな夜のベッドルーム
むー

「睡眠不足はダイエットの大敵」——では、具体的に何時間眠ればいいのでしょうか。

睡眠不足がなぜ体重に影響するのか、そのしくみは「寝不足だと食べ過ぎてしまい、動かなくなり、筋肉が減る」の記事で解説しました。今回は「しくみ」ではなく「数字」に焦点を絞ります。

結論から言うと、複数の研究が最も強く支持しているのは「7時間を下回らないこと」です。「7時間以上眠るべき」という点は研究間でよく一致していますが、「何時間まで長くて良いか」という上限は、実はまだ答えが定まっていません。

各セクション末尾の「出典」は元の論文へのリンクです(全文無料で読めるものと、要旨のみ無料で本文は有料のものが混在しています。リンク先に応じて個別に記載しています)。

「7時間以上」の根拠

2015年、米国睡眠医学会(AASM)と睡眠研究学会(SRS)が15名の専門家を集め、数千件の研究をレビューした上で合同声明を出しました。結論は「18〜60歳の成人は7時間以上の睡眠をとるべき」というものです。この声明自体は、AASM・SRS自身の資金で作成されており、外部企業からの資金には依存していません(ただしAASMという組織全体では、関連団体が製薬会社から助成金を受け取っている例もあります)。

パネルは「6〜7時間」については意見がまとまらなかったと正直に明記しています。また、9時間以上の睡眠が良いか悪いかは「確信を持って判断できない」として、あえて上限を設定しませんでした。長時間睡眠を調べた研究自体が少なく、また長時間睡眠は原因というより病気の結果である可能性もあるためです。

同じ2015年、別団体のNSF(米国国立睡眠財団)も、幅広い分野の専門家パネルによる独自の推奨値をまとめており、成人は「7〜9時間」としています。こちらはAASM・SRSと違い、上限も数字で示しています。NSFは非営利団体ですが、製薬会社等からの資金提供も指摘されており(NSF自身の詳細な開示は未確認)、一方でパネルには米国小児科学会など複数の独立医学会の代表者が参加しています。なお現在の「SleepFoundation.org」は2019年にNSFから切り離された別の営利企業のサイトで、ここで引用しているNSF(非営利団体)とは別物です。

つまり、「7時間以上」という下限は2つの独立した専門家パネルが一致して支持する結論です。一方「9時間を超えるとどうなるか」については、具体的な数字を示す団体もあれば、根拠が十分でないとして判断を保留する団体もあり、専門家の間でもまだ結論が出ていません。

出典:Watson NF, et al. J Clin Sleep Med. 2015;11(6):591-592.(要旨のみ無料) Hirshkowitz M, et al. Sleep Health. 2015;1(4):233-243.(要旨のみ無料)

体重管理での最適値

Cappuccio(2008年)— 60万人規模の基礎研究

英ウォーリック大学のCappuccioらが、成人18件・604,509人のデータを統合したメタ解析です。この研究自体は「7〜8時間」のような具体的な最適時間までは算出しておらず、あくまで「短時間睡眠」というくくりと肥満の関連を検証したものです。短時間睡眠と肥満の関連は、統計的な指標(オッズ比)で1.55倍に相当し、睡眠時間が1時間増えるごとにBMIが少し下がる関係も見られました(ただしこれは単純化した関係であり、「長く眠るほど際限なく体重が減っていく」という意味ではありません。より詳しい形は、次に紹介するZhouの研究で分かります)。

ただし対象の多くは一時点だけを調べた研究で、著者ら自身も「原因と結果の関係を証明するのは難しい」と明記しています。睡眠不足が先か、肥満が先かは分かりません。

Zhou(2019年)— 「7〜8時間」の根拠

この限界を踏まえ、長期追跡研究12件だけに絞って行われた分析です。肥満リスクが最も低いのは7〜8時間で、7時間未満では1時間減るごとにリスクが有意に9%上がります。一方、7時間を超えて長く眠る場合の上昇(1時間ごと約2%)は統計的にはっきりしませんでした。

つまり確実に言えるのは「7時間を切ると肥満リスクが上がる」という点までです。9%という上昇率は単純な足し算ではなく積み重なっていくため、睡眠時間が削られるほど負担は加速度的に大きくなっていくと理解しておくとよいでしょう。

両研究とも自己申告の睡眠時間データという弱点はありますが、他の複数の研究でも7〜8時間前後を境に体力や主観的健康感など様々な指標でリスクが変わる傾向が確認されており、この範囲自体には一定の裏付けがあります。

出典:Cappuccio FP, et al. Sleep. 2008;31(5):619-626.(全文無料) Zhou Q, et al. Sleep Breath. 2019;23(4):1035-1045.(要旨のみ無料)

個人差・環境差もある

ノルウェー北部・北極圏のトロムソ地域で行われた研究(2013年、住民6,413人)では、最適な睡眠時間が8〜9時間という結果でした。他地域より1時間ほど長く、6時間未満の人は肥満リスクが約80%高いという結果です。

著者らは「これまでの研究より1時間長い」と明記しています。トロムソは冬に太陽が昇らず夏は白夜が続く特殊な地域ですが、著者ら自身は別の関連研究を引用し「日照よりも他の要因の方が重要かもしれない」としており、理由ははっきりしていません。

この研究は一時点だけを調べたもので、対象も北極圏という特殊な地域に限られます。加えて、最適値自体が全体的にシフトしているため、この地域で「7時間で足りるか」は、実は確認できません。「短すぎる(6時間未満)のは良くない」ということは言えますが、「7時間あれば十分」とまでは言い切れないのです。

出典:Johnsen MT, et al. PLOS One. 2013;8(2):e56756.(全文無料)

まとめ:確実なのは「7時間を下回らないこと」

結論
AASM・SRS(2015)7時間以上。上限は設定せず
NSF(2015)7〜9時間
Cappuccio(2008)短時間睡眠と肥満の関連を大規模に確認
Zhou(2019)7時間未満で肥満リスクが有意に上昇。7時間超の上昇は有意差なし
Johnsen(2013)北極圏では最適値が8〜9時間にシフト

共通しているのは、「短すぎることのリスク」は一貫して、はっきりとした形で示されている一方、「長すぎることのリスク」や上限の位置は、研究や地域によってばらつきがあるという点です。同じCappuccioらが2010年に発表した、138万人を対象とする死亡率のメタ解析でも、長時間睡眠と死亡リスクの関連は基礎疾患による影響の可能性が指摘されています。

最も確かな結論は「7時間を目安の下限とし、まずそれを切らないようにする」ことです。「9時間を超えると良くない」「7時間で誰でも十分」といった言い切りは、現時点のエビデンスでは断定できません。7時間はあくまで出発点で、体調や環境に応じて調整の余地があると考えるのが実態に近いでしょう。

睡眠不足がなぜ体重に影響するのか——食欲増加・活動量低下・筋肉の減少というしくみについては、「寝不足だと食べ過ぎてしまい、動かなくなり、筋肉が減る」の記事で解説しています。「7時間を切らない」という目標は、食事や運動の記録と同じく、ダイエットの管理項目の一つとして扱う価値があります。まずは自分の睡眠時間を記録するところから始めてみてはいかがでしょうか。

出典:Cappuccio FP, et al. Sleep. 2010;33(5):585-592.(要旨のみ無料)

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