ダイエットの実行期とは?挫折を防ぐ科学的な続け方
準備期の記事では、「1か月以内に始めよう」という気持ちを固めるところまでお話ししました。今回はその続きです。実際に食事や運動を変え始める「実行期」について、科学的な研究をもとに解説していきます。
1. 実行期ってどんな時期?
行動変容ステージモデル(TTM)では、人が生活習慣を変えるとき「無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期」という5つの段階を通ると考えられています。実行期は、準備期で固めた「やろう」という気持ちを、実際の行動に移す段階です。
厚労省の基準:6か月未満
厚生労働省の「標準的な健診・保健指導プログラム」では、実行期をこう定義しています。
明確な行動変容が観察されるが、その持続がまだ6か月未満である時期
6か月以上続けば、「維持期」に移行したとみなされます。
なぜ6か月なのでしょうか。もともとTTMは禁煙研究から生まれたモデルで、禁煙は始めた直後ほど失敗しやすく、6か月続けば失敗のリスクがぐっと下がることが分かっています。6か月という区切りは、この「そろそろ大丈夫」というタイミングをもとにしています。
なお、この数字を厳密に当てはめすぎるのも考えものだ、という指摘もあります(諏訪, 2014, 2017)。大事なのは月数そのものより、今の自分の状態がどうかということです。
2. 実行期で何が変わるのか
準備期の中心は「気持ち」でした。実行期の中心は「行動」です。ここからは、その行動を支える具体的な工夫を、記録・自信・立て直し方・周囲の支えという4つの角度から見ていきます。
3. セルフモニタリングという中核行動
記録することがなぜ有効なのか
Raber et al.(2021)は、過体重・肥満の成人を対象にした59件の減量介入研究をレビューしました。その結果、すべてを記録する高強度の方法でも、特定の項目だけ記録する低強度の方法でも、どちらも対照群より有意に体重が減っていました。
つまり「全部を完璧に記録しなければ効果がない」わけではないのです。糖分の多い飲み物や野菜・果物の摂取など、特定の項目だけに絞って記録する方法でも、一定の効果が期待できます。
アプリで記録すると?
Berry et al.(2021)は、デジタル技術を使ったセルフモニタリングに絞ってメタ分析を行いました。12件のRCTを分析した結果、食事と運動の両方をアプリなどで記録した群は、体重が平均2.87kg多く減っていました(統計的に有意)。スマホでの記録が当たり前になった今、実務に近い裏付けと言えます。
実務的な結論
2つの研究を合わせると、「セルフモニタリングは形式を問わず有効だが、完璧さより続けやすさを優先すべき」という結論になります。体重計に乗る、アプリに入力する、手帳に一言書く――どんな形でもいいので、まず「見える化」を始めることが実行期の土台になります。
ただ、記録するだけでは長続きしません。記録が次の行動につながるには、もうひとつ大事な要素があります。
4. なぜ記録するだけで行動が変わるのか
自己効力感という考え方
社会的認知理論では、行動が変わるかどうかは「自分にはこれができる」という自信(自己効力感)次第だとされています。この自信は、体重に直接効くわけではありません。食事管理などの行動を介して、間接的に体重に影響するのです。
Banduraは、自己効力感を高める要因として、成功体験・社会的モデリング(誰かがやっているのを見る)・社会的説得・体調や気分の4つを挙げています。厚労省のe-ヘルスネットでも「成功経験」と「代理経験」が自己効力感を高めるポイントとして紹介されています。
セルフモニタリングは、まさにこの成功体験を目に見える形にする装置です。「昨日より少し良い選択ができた」という小さな変化が記録に残ることで、「自分にもできる」という自信につながります。記録をつけていないと、こうした小さな進歩に気づく機会自体がなくなってしまいます。
成功を自分でどう報酬に変えるか
TTMには、成功体験を意図的に強化する「強化マネジメント」というプロセスもあります。Volpp et al.(2008)のRCTでは、くじ形式や預金契約(お金を賭けて達成できれば取り戻せる仕組み)を使った金銭的インセンティブを導入したところ、対照群より平均約3.9ポンド多く体重が減りました。
ただし、ここには正直に伝えるべき限界があります。インセンティブが終わると効果の多くは失われ、早い段階でリバウンドする傾向が報告されています。金銭などの外的な報酬は、短期的な後押しにはなりますが、長期的な習慣化には向きません。自分へのご褒美を設定するなら、「食べ物以外の小さな楽しみ」を、記録が続いた区切りごとに用意するくらいが、実行期には無理のない形です。
自信をつけながら進んでいても、うまくいかない日は必ず出てきます。そんなときどう立て直すかが、次のテーマです。
5. 記録に「乱れ」が出たときどう向き合うか
再発予防モデル
セルフモニタリングを続けていれば、必ず「乱れ」の日が出てきます。食べ過ぎた日、体重が増えた日です。ここでどう向き合うかを教えてくれるのが、Marlatt & Gordon(1985)の再発予防モデルです。
このモデルは、リバウンドを「一発アウトの失敗」ではなく、時間をかけて展開する一連の出来事として捉えます。高リスクな状況、対処スキル、そして次に説明する「禁欲違反効果」などが絡み合って、再発につながると考えます。
禁欲違反効果という心のワナ
ダイエットで特に関係が深いのが「禁欲違反効果」です。これは、一度のルール違反(ケーキを食べてしまった、など)を「もうダメだ、今日は全部台無しだ」と拡大解釈してしまう心のクセを指します。この拡大解釈こそが、一度の乱れを本当のリバウンドにつなげてしまう引き金になります。
「一度の乱れ」と「本当の後戻り」を分けて考える
一度の食べ過ぎは、記録の中の1点にすぎません。それ自体が実行期からの脱落を意味するわけではないのです。セルフモニタリングの記録があるからこそ、「これは一時的な乱れなのか、それとも傾向の変化なのか」を冷静に判断できます。
引き金への反応を置き換える
再発予防と関係が深いのが「拮抗条件付け」というプロセスです。問題行動につながる引き金(ストレス、特定の時間帯、特定の場所など)への反応そのものを、健康的な代替行動に置き換える方法です。
Bird et al.(2022)の研究では、減量や体重維持の経験がある20名にインタビューを行ったところ、全員が高カロリー食品を別の食品へ習慣的に置き換えた経験を持っていました。そして、完全に断つよりも、置き換える方が続けやすいと感じていました。
「間食したくなったら水を飲む」「小腹が空く時間帯に軽い散歩に出る」――こんなふうに、引き金と新しい反応をあらかじめセットで用意しておくことが、乱れそのものを減らす予防策になります。
記録・自信・立て直し方。ここまでは一人でできる工夫でした。最後は、周囲の力を借りるという視点です。
6. ひとりで頑張らない
友人と一緒だと続きやすい
Wing & Jeffery(1999)のRCTでは、友人や家族と一緒に減量プログラムに参加した人は、単独参加の人より大きく体重を減らしていました。単独参加で標準的な行動療法だけを受けた群では、10か月後まで完全に減量を維持できたのは24%でした。社会的サポートを組み込んだ群では、参加の継続率も維持率も向上していました。
最新の研究:過信は禁物
一方、Christensen et al.(2024)による最新のメタ分析(24件のRCT・4,919名対象)では、少し違う結果も出ています。介入開始から2〜4か月、6か月の時点では、有意な効果は確認されませんでした。効果が見えたのは、介入が終わった後や、数か月経ってからの追跡調査でした。結果は時期によってばらつきがあり、著者ら自身も「確かな結論にはさらなる研究が必要」と留保をつけています。
「社会的サポートがあれば必ず効く」とは言い切れません。短期的な効果は今のところ確認されておらず、中長期的な後押しとして期待する程度にとどめるのが、正直な受け止め方です。
7. まとめ:実行期を乗り切るためのポイント
- 記録する:形式は問わない。完璧さより続けやすさを優先する
- 記録を自信に変える:小さな成功を可視化して、自己効力感を積み上げる
- 成功を無理のない形で報酬に変える:外的な報酬だけに頼らない
- 乱れを拡大解釈しない:一度の食べ過ぎを「今日は全部台無し」にしない
- 引き金と代替行動をセットで用意する:完全に断つより、置き換える方が続けやすい
- ひとりで抱え込まない:効果はすぐには出なくても、長い目で見た後押しになる
実行期は、準備期で固めた気持ちを行動に変える最初の関門です。そして、その行動を6か月以上続けられれば、いよいよ「維持期」に入ります。次回は、この維持期で何が起きるのか、そしてなぜ多くの人がここでリバウンドしてしまうのかを見ていきます。
参考文献
- Prochaska, J.O. & DiClemente, C.C. (1983). Stages and processes of self-change of smoking. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 51(3), 390-395.
- Prochaska, J.O. & Velicer, W.F. (1997). The transtheoretical model of health behavior change. American Journal of Health Promotion, 12(1), 38-48.
- 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム」
- 諏訪茂樹 (2014, 2017)「ティーチングとコーチングによる健康支援」日本保健医療行動科学会雑誌
- Donnelly, J.E. et al. (2009). ACSM Position Stand. Medicine & Science in Sports & Exercise, 42(2), 459-471.
- Raber, M. et al. (2021). A systematic review of the use of dietary self-monitoring in behavioural weight loss interventions. Public Health Nutrition.
- Berry, R., Kassavou, A., & Sutton, S. (2021). Does self-monitoring diet and physical activity behaviors using digital technology support adults with obesity or overweight to lose weight? Obesity Reviews, 22(10), e13306.
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191-215.
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「運動行動変容について」
- Marlatt, G.A. & Gordon, J.R. (1985). Relapse Prevention. Guilford Press.
- Larimer, M.E. & Palmer, R.S. (1999). Relapse prevention: An overview of Marlatt’s cognitive-behavioral model. Alcohol Research and Health, 23(2), 151-160.
- Wing, R.R. & Jeffery, R.W. (1999). Benefits of recruiting participants with friends and increasing social support for weight loss and maintenance. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 67(1), 132-138.
- Jensen, M.T. et al. (2024). The effectiveness of social-support-based weight-loss interventions. International Journal of Obesity, 48, 599-611.
- Volpp, K.G. et al. (2008). Financial incentive-based approaches for weight loss. JAMA, 300(22), 2631-2637.
- Bird, F., Searle, A., Rogers, P.J., & England, C. (2022). Attitudes to Three Weight Maintenance Strategies. Nutrients, 14(21), 4441.

