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セマグルチド・チルゼパチドは本当に効くのか?一次文献と日本の保険適用条件から検証する

GLP-1健康ガイドのイラスト
むー

はじめに

肥満とやせ、それぞれの治療はどう進む?一次資料でわかる基本の流れという記事で、肥満症の治療は「①食事・運動・行動療法 → ②薬物療法 → ③外科治療」という3段階で進むことを紹介しました。このうち②薬物療法については、当時「食事・運動・行動療法だけでは十分に減量できない場合や、合併症が重く、急いで減量する必要がある場合には、薬による治療が併せて検討されます。」という一文だけで済ませていました。

今回はこの②薬物療法、特にここ数年で急速に話題になっているGLP-1受容体作動薬(セマグルチド)とGIP/GLP-1受容体デュアルアゴニスト(チルゼパチド)について、一次文献をもとに深掘りしていきます。

なお、「薬を使えばもう運動はしなくていいのか」「薬で落ちるのは脂肪だけでなく筋肉ではないのか」という疑問は、別記事の「痩せ薬」を使っても運動は必要?世界のスポーツ医学会が出した答えですでに扱っています。この記事ではその話題には触れず、薬そのものにどれくらいの効果があるのかと、日本で実際どう使われているのかの2点に絞って整理していきます。

1. そもそもどんな薬なのか

まず、名前がよく似ていて紛らわしいこの2つの薬について整理しておきます。

GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)というのは、食事をとると腸から自然に分泌されるホルモンの一種です。インスリンの分泌を促したり、胃から食べ物が出ていくスピードをゆっくりにしたり、脳の食欲中枢に働きかけて満腹感を強めたりする作用があります(Campbell & Drucker, 2013)。GLP-1受容体作動薬は、この体内のGLP-1に似た構造を持ちながら、分解されにくいように作られた薬で、代表的な成分がセマグルチドです。

一方のチルゼパチドは、GLP-1の受容体に加えて、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)という別の消化管ホルモンの受容体にも同時に働きかける、いわば「二刀流」の薬です。専門的にはデュアル(二重)アゴニストと呼ばれています。2つの経路を同時に刺激することで、GLP-1単独の薬よりも強い体重減少効果が報告されています(数字は2章で紹介します)。

同じ成分なのに製品名が違う、ややこしいポイント

ここで一つ、知っておくと混乱しないポイントがあります。同じ成分でも、「糖尿病の薬」として使うか「肥満症の薬」として使うかで、製品名(ブランド名)がまったく別になっているのです。

成分糖尿病治療薬としての名前肥満症治療薬としての名前
セマグルチドオゼンピック(注射)/リベルサス(飲み薬)ウゴービ(注射)
チルゼパチドマンジャロ(注射)ゼップバウンド(注射)

同じ成分でも、糖尿病の治療のために作られた薬と、肥満症の治療のために別途あらためて臨床試験を行って承認された薬とは、まったく別の製品として扱われています。

なお、セマグルチドには飲み薬(リベルサス)がありますが、チルゼパチドには今のところ(2026年9月時点)飲み薬タイプはなく、注射のみです。この点は覚えておいてください。


2. 実際どれくらい体重が減るのか(海外の臨床試験から)

セマグルチドとチルゼパチドの効果を確かめた、代表的な臨床試験を見ていきます。

セマグルチドの場合:STEP 1試験

Wilding et al.(2021年、NEJM誌)が発表したSTEP 1試験は、糖尿病のない過体重・肥満の成人1,961人を対象に、セマグルチド2.4mgを週1回、68週間にわたって注射してもらった試験です(薬を使ったグループと、効果のない偽薬を使ったグループを比べる形式で行われています)。

  • 68週後の体重の変化:セマグルチドを使ったグループ -14.9% / 偽薬グループ -2.4%
  • 参加者の86.4%が5%以上、69.1%が10%以上体重を減らすことができた

チルゼパチドの場合:SURMOUNT-1試験

Jastreboff et al.(2022年、NEJM誌)が発表したSURMOUNT-1試験では、同じような条件の人2,539人に、チルゼパチド(5mg・10mg・15mgの3段階)を週1回、72週間注射してもらいました。

  • 72週後の体重の変化:10mgグループ -19.5% / 15mgグループ -20.9% / 偽薬グループ -3.1%
  • 用量が多いほど効果も大きくなり、15mgグループでは90%以上の人が5%以上の体重減少に成功

セマグルチドの試験は68週間、チルゼパチドの試験は72週間と、観察している期間が4週間ずれている点には注意してください。「セマグルチド-14.9% vs チルゼパチド-20.9%」という数字だけを見ればチルゼパチドの方が強力に見えますが、期間がぴったり揃った比較ではない、ということは頭の片隅に置いておくとよいと思います。

副作用について

どちらの薬も、多い副作用は吐き気や下痢といった消化器の症状です。多くは軽い〜中くらいの程度で、薬の量を増やしていく時期に起こりやすいとされています。副作用が原因で治験を途中でやめた人の割合は、セマグルチドで約7%(偽薬グループでは3.1%)、チルゼパチドは用量によって4.3〜7.1%(偽薬グループでは2.6%)でした。頻度としては少数派ですが、重い副作用が起こる可能性もゼロではないため、医師の管理のもとで使うことが前提の薬です。

3. 日本人にも同じくらい効くのか

STEP 1やSURMOUNT-1は世界各国の人を対象にした試験ですが、体格や薬への反応の仕方には人種差がある可能性があるため、東アジア人・日本人だけを対象にした試験も別に行われています。

セマグルチド:STEP 6試験

Kadowaki et al.(2022年、Lancet Diabetes & Endocrinology誌)が発表したSTEP 6試験は、日本と韓国の28施設で行われた試験です。この試験の面白いところは、海外のSTEP 1では2.4mgという用量だけが調べられたのに対し、東アジア人向けに2.4mgより少ない1.7mgという用量も追加で調べられた点です。結果はセマグルチドを使ったグループで、偽薬グループに比べてはっきりとした体重減少が確認され、お腹まわりの内臓脂肪の減少も報告されています。

この1.7mgという用量は、実はそのまま日本で承認されているウゴービの用量ラインナップ(0.25mg〜2.4mgの5段階)に、海外にはない用量として引き継がれています。つまり日本で使われているウゴービの用量の刻み方は、このSTEP 6の東アジア人向けデータがもとになっているわけです。

チルゼパチド:SURMOUNT-J試験

チルゼパチドについても、日本人だけを対象にした国内試験があります。Kadowaki et al.(2025年、Lancet Diabetes & Endocrinology誌)が発表したSURMOUNT-J試験です。

ちなみにこの論文の筆頭著者は、STEP 6と同じKadowaki氏です。日本のインクレチン関連薬(GLP-1系の薬をまとめてこう呼びます)の研究において、中心的な役割を果たしている研究者の一人だとわかります。

  • 72週後の体重の変化:10mgグループ -17.8% / 15mgグループ -22.7% / 偽薬グループ -1.7%
  • どちらの用量グループも、偽薬グループに比べてはっきりとした差を示した

なお、この試験には267人が参加しましたが、1つの施設でGCP(医薬品の臨床試験を適切に行うための基準)違反が見つかり、その施設の42人分のデータが主な解析から除外されています(最終的な解析対象は225人)。数字だけをそのまま鵜呑みにせず、こうした試験運営上の限界も含めて評価することが大切です。

SURMOUNT-J(15mgグループ-22.7%)は、海外のSURMOUNT-1(15mgグループ-20.9%)よりもやや大きい効果を示しています。これはSURMOUNT-1の日本人だけを取り出したサブグループ解析でも報告されている「東アジア人にはチルゼパチドの効果がやや強く出やすい」という傾向と一致します。ただしこれは、それぞれ別の試験を横並びにした比較であり、同じ人たちを対象にセマグルチドとチルゼパチドを直接比べた試験ではない、という点には気をつけてください。

4. 日本で実際にどう使われているのか

ここからは試験の話を離れて、実際に日本の医療現場でどう使われているかを見ていきます。

いつから使えるようになったのか

ウゴービ(セマグルチド)ゼップバウンド(チルゼパチド)
薬価収載(保険適用が始まった日)2023年11月22日2025年3月
発売(実際に販売が始まった日)2024年2月22日2025年4月11日
その後の適応拡大—2026年5月:閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)にも使えるように

日本では「薬価収載」(厚労省が新しい薬の値段を正式に決め、制度上は保険診療で使えるようになる日)と、実際に「発売」される日との間に、数か月のタイムラグがあるのが通例です。ウゴービもゼップバウンドも、このパターンに当てはまります。

保険で使うための条件

両方の薬とも、厚労省の「最適使用推進ガイドライン」というルールで、保険適用になる患者さんと医療機関の条件が細かく決められています。ここで挙げるBMIの数字(27・35)は、「肥満」の一般的な基準(BMI25以上)とは別の、この薬だからこその、より高めの基準値だということを先にお伝えしておきます。条件はおおむね以下の4つです。

  1. 高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のうち、いずれか1つ以上を持っていること
  2. そのうえで、BMI35以上なら健康障害が1つ以上、BMI27以上35未満なら健康障害が2つ以上(どちらも上の1つを含む)あること
  3. 6か月以上、2か月に1回以上のペースで管理栄養士による栄養指導を受けながら食事・運動療法に取り組んでも、十分な効果が出ていないこと
  4. 内科・循環器内科・内分泌内科・代謝内科・糖尿病内科のいずれかを標榜し、日本糖尿病学会・日本内分泌学会・日本循環器学会などが認めた教育研修施設であること

なお、これらはあくまで承認上の「使える期間」の上限の話です(ウゴービは68週間、ゼップバウンドは72週間、OSASの場合は52週間)。5章で紹介する「途中でやめたときのリバウンド」の話とは別物なので、混同しないよう注意してください。

「肥満症」の診断=この薬が使えるわけではない

既存記事で説明したとおり、「肥満」の判定はBMI25以上、「肥満症」はそこに肥満に関連する11の健康障害のうち1つ以上が加わって初めて該当します(内臓脂肪の量で判定する経路もあります)。しかしウゴービ・ゼップバウンドの保険適用基準は、BMIの基準値そのものが27以上(または35以上)と「肥満」の基準(25以上)より高く設定されているうえ、高血圧・脂質異常症・2型糖尿病という特定の3つのうちどれかを必ず持っている必要があり、健康障害の数の条件もより厳しめです。「肥満症と診断された=保険でこの薬が使える」というわけではない、ということは覚えておいてほしいポイントです。

目的外での使用には注意喚起も

厚労省は2023年以降、これらの薬を美容・痩身・ダイエット目的で(本来の使い方とは違う形で)使うことについて、繰り返し注意を呼びかけています。直近では2026年6月16日にも改めて通知を出しています。ポイントは以下の通りです。

  • 美容・痩身目的での使用は、安全性や効果がきちんと確認されているわけではない
  • 医薬品副作用被害救済制度(重い副作用が出たときに医療費などを支援する公的な制度)は、あくまで「正しい目的・使い方で使った場合」の被害しか対象にならないため、目的外の使用で重い健康被害が出ても、支援を受けられない可能性が非常に高い
  • 承認されていない薬や、目的外での使用に関する自由診療の広告は、原則として禁止されている

日本肥満学会も2025年4月10日に改訂した声明(ウゴービ・ゼップバウンド両方を対象)の中で、健康障害のない肥満や、低体重・普通体重の人が美容・痩身・ダイエット目的で使うべきではない、と重ねて強調しています。

5. 薬をやめるとどうなるのか

最後に、これらの薬を途中でやめた場合に何が起こるかを見ておきましょう。

セマグルチド:STEP 4試験

Rubino et al.(2021年、JAMA誌)のSTEP 4試験は、20週間セマグルチドを使ってもらった後、参加者を「そのまま使い続けるグループ」と「偽薬に切り替える=実質やめるグループ」に分けて、さらに48週間観察した試験です。

  • 20週目から68週目までの体重の変化:使い続けたグループ -7.9%(さらに減量が進んだ)/ やめたグループ +6.9%(リバウンド)

チルゼパチド:SURMOUNT-4試験

Aronne et al.(2024年、JAMA誌)のSURMOUNT-4試験も同じような作りの試験で、36週間の投与後、続けるグループとやめるグループを比べています。

  • 36週目から88週目までの体重の変化:使い続けたグループ -5.5%(さらに減量が進んだ)/ やめたグループ +14.0%(リバウンド)

STEP 4とSURMOUNT-4は、観察を始めるタイミング(20週目 vs 36週目)も、観察した長さ(48週間 vs 52週間)も違うため、「+6.9%」と「+14.0%」という数字を単純に並べて「どちらの薬の方がリバウンドしやすい」と結論づけることはできません。ここから言えるのは、あくまで「どちらの薬も、やめれば体重は戻る方向に働く」という共通した傾向です。

このリバウンドは、既存記事のリバウンドとは仕組みが違う

ここで説明した、薬をやめた後のリバウンドは、薬による食欲抑制の効果そのものがなくなることによる、いわば薬の効き目の問題です。一方、リバウンド防止に関する既存記事で扱っているのは、運動量など生活習慣・行動面の要因(ACSMの一次資料に基づく話)によるリバウンドで、起こる仕組みがまったく違います。同じ「リバウンド」という言葉で語られていても、この2つを混同しないよう区別して理解してください。

6. まとめ

GLP-1受容体作動薬とGIP/GLP-1デュアルアゴニストは、これまでの肥満症治療薬と比べてはっきりと大きな体重減少効果を持つことが、いくつもの大規模な臨床試験で示されています。日本人を対象にしたSTEP 6・SURMOUNT-Jという試験でも同じように効果が確認されており、その結果は実際の保険適用の用量設定にも反映されています。

一方で、

  • 保険で使うには、対象になる病気・BMI・6か月の生活習慣療法・医療機関の条件など、かなり厳しい条件がある
  • 「肥満症」という診断と、これらの薬が保険で使える条件は、別物である
  • やめれば体重は元に戻る方向に働く(薬の効き目がなくなるという仕組みによるもの)
  • 美容目的での目的外使用は、安全性が確認されておらず、公的な支援制度も使えない

という点を踏まえると、これらの薬は「使えば全部解決する魔法の薬」ではなく、治療の3段階の中の一つの選択肢として、医師の管理のもとで生活習慣の見直しと組み合わせて使うものだ、と理解しておくのがよさそうです。運動との組み合わせ方についても、あわせて参考にしてみてください。

参考文献

  1. Campbell JE, Drucker DJ. Pharmacology, physiology, and mechanisms of incretin hormone action. Cell Metab. 2013;17(6):819-837.:DOI
  2. Wilding JPH, Batterham RL, Calanna S, et al. Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity. N Engl J Med. 2021;384(11):989-1002.:DOI
  3. Jastreboff AM, Aronne LJ, Ahmad NN, et al. Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity. N Engl J Med. 2022;387(3):205-216.:DOI
  4. Kadowaki T, Isendahl J, Khalid U, et al. Semaglutide once a week in adults with overweight or obesity, with or without type 2 diabetes in an east Asian population (STEP 6). Lancet Diabetes Endocrinol. 2022;10(3):193-206.:DOI
  5. Kadowaki T, et al. Efficacy and safety of once-weekly tirzepatide in Japanese patients with obesity disease (SURMOUNT-J). Lancet Diabetes Endocrinol. 2025.:DOI
  6. Rubino D, Abrahamsson N, Davies M, et al. Effect of Continued Weekly Subcutaneous Semaglutide vs Placebo on Weight Loss Maintenance in Adults With Overweight or Obesity: The STEP 4 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021;325(14):1414-1425.:DOI
  7. Aronne LJ, Sattar N, Horn DB, et al. Continued Treatment With Tirzepatide for Maintenance of Weight Reduction in Adults With Obesity: The SURMOUNT-4 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2024;331(1):38-48.:DOI
  8. 厚生労働省「セマグルチド(遺伝子組換え)製剤(肥満症)の最適使用推進ガイドラインについて」(2023年11月21日):PDF
  9. 厚生労働省「チルゼパチド製剤(肥満症)の最適使用推進ガイドラインについて」(2025年3月、2026年5月改訂):PDF
  10. 厚生労働省「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」(2026年6月16日):厚労省サイト
  11. 日本肥満学会「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」(2023年11月25日策定、2025年4月10日改訂):PDF

内部リンク:肥満とやせ、それぞれの治療はどう進む?一次資料でわかる基本の流れ/「痩せ薬」を使っても運動は必要?世界のスポーツ医学会が出した答え/リバウンドを防ぐには?ACSM(米国スポーツ医学会)の一次資料から見る「体重維持」に必要な運動量

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歯科医師・ブロガー
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