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更年期前後のホルモン変化と体重管理—なぜこの時期に「代謝」が変わるのか

更年期のホルモン変化と健やかな体重管理
むー

「更年期になってから太りやすくなった」「食事は変えていないのに体重が増える」。40代後半から50代の女性から、こんな声をよく聞きます。この「更年期太り」は、思い込みなのでしょうか。それとも、科学的な裏付けがあるのでしょうか。

先に結論だけお伝えします。研究が示しているのは、「体重が急に増える」ことではありません。体重はあまり変わらないのに、体の中身(脂肪と筋肉の割合)が変わる、という現象です。この違いについては、記事の中盤で詳しく説明します。

このテーマは、以前の記事「「代謝が落ちた」は思い込み?」ともつながっています。あの記事では、「基礎代謝は30〜40代では変わらず、実際に下がり始めるのは50代以降」という結論をお伝えしました。日本人女性が閉経を迎える平均年齢は50.5歳です。つまり更年期(閉経の前後5年ずつ、合わせて10年間)は、ちょうどこの「50代以降」と重なります。今回は、その重なる時期に体の中で何が起きているのかを、研究データから見ていきます。

一つお断りしておきたいことがあります。これから紹介するデータの多くは、アメリカやスイスなど、海外の研究によるものです。人種によって結果が違う、というデータも出てきます。そのため、日本人女性にそのまま当てはまるとは限りません。

余談ですが、日本でも2024年度から始まった国の健康政策「健康日本21(第三次)」で、初めて「女性の健康」が独立した項目になりました。理由として「ライフステージごとに女性ホルモンが劇的に変化する」ことが挙げられています。更年期のホルモン変化が、国の健康課題として正式に認められた形です。ただし、これは政策上の位置づけであり、体重や代謝の仕組みについての科学的な説明ではありません。

1. 体は何が変わるのか——アメリカの大規模研究(SWAN研究)から

まず、言葉の整理をしておきます。日本語の「更年期」は、閉経の前後5年ずつ、合わせて10年間を指します。ですが、これから紹介する研究の多くは、その中でもさらに絞られた期間を対象にしています。

1〜3章で扱うのは、閉経の前後数年間という、更年期の中心部分です。これを「更年期移行期」と呼びます。一方、4〜5章で扱う研究は「閉経後」という、もっと広い年齢層(50代から80代まで)を対象にしています。この違いを頭の片隅に置いて読み進めてください。

更年期移行期に体がどう変わるかについて、もっとも規模の大きいデータを出しているのが、アメリカで行われたSWAN研究です。Greendale氏らの研究チーム(2019年)が、1,246人の女性を最長18年間にわたって追跡しました。

この研究によると、閉経のおよそ2年前から、脂肪が増えるペースが約2倍に速まり、筋肉などの「脂肪以外の組織」が減り始めます。これは閉経の2年後まで続きます。

ここで大事なポイントがあります。この研究がはっきり示しているのは、体重そのものが急に増えるわけではない、ということです。速く変わるのは体重ではなく、体の中身(脂肪と筋肉の割合)です。体重計の数字だけを見ていると、体の中で起きているこの変化に気づけないかもしれません。

もう一つ、日本人にとって見逃せないデータがあります。SWAN研究には日本人の参加者(178人)も含まれていました。ところが、白人の参加者とは違い、日本人の参加者では脂肪が増えるペースの加速が、統計的に意味のある形では見られませんでした(筋肉などが減る現象は、白人と同じように見られています)。理由はまだわかっていませんが、少なくとも「海外の更年期太りのデータが、そのまま日本人女性に当てはまる」とは言い切れないことを示しています。

2. なぜ起こるのか——女性ホルモンと睡眠中のエネルギー消費

体が変わる背景には、女性ホルモン(エストロゲン)の低下が関わっていると考えられています。Mauvais-Jarvis氏らによる総説論文(2013年)は、エストロゲンが脳(視床下部)を通じて、食欲やエネルギー消費、脂肪のつき方をコントロールしていることを、動物実験と人間の研究の両方からまとめています。

この仕組みを、具体的な数字で裏付けているのがLovejoy氏らの研究(2008年)です。4年間かけて行われたこの研究では、閉経を迎えた女性のグループと、まだ閉経していない女性のグループを比べました。「whole-room calorimeter」という、体全体のエネルギー消費を測れる特殊な部屋を使い、24時間のエネルギー消費を実際に測定しています。

その結果、閉経したグループでは、眠っている間のエネルギー消費が、閉経していないグループよりも大きく下がっていました(閉経グループ-7.9%、閉経していないグループ-5.3%)。また、脂肪をエネルギーとして使う働きも32%下がっていました。

ここで、言葉の意味を整理しておきます。基礎代謝(BMR)は、通常、目が覚めた状態で、じっとしていて、お腹が空いているときに測ります。一方、Lovejoy氏らの研究が測ったのは「眠っている間のエネルギー消費」です。近い考え方ではありますが、測り方の条件が違うため、厳密には同じものではありません。

このデータには、いくつか気をつけたい点もあります。24時間のエネルギー消費を実際に測ったのは、研究全体の156人のうち、34人という一部の人たちだけでした。しかも対象は、アメリカに住む白人と黒人の女性だけです。日本人を含むアジア人女性のデータではありません。この数字を、そのまま「更年期の女性みんなに当てはまる」と考えることはできません。

3. ホルモンだけが原因ではない——生活習慣の変化という視点

体の変化を説明するのは、エネルギー消費の低下だけではありません。実は、同じLovejoy氏らの研究(2008年)には、もう一つ興味深いデータが記録されています。

同じ4年間で、対象の女性たちは、体を動かす量が50%以上も減り、食べる量(摂取エネルギー)も約30%減っていました。それでも、体重が増えるのを防ぐには十分ではなかった、というのが、この研究のもう一つの発見です。

つまり、この4年間には、「ホルモンの変化によるエネルギー消費の低下」と「生活習慣(体を動かす量や食べる量)の変化」という、少なくとも2つのことが同時に起きていたことになります。どちらか一方だけが原因、とは言い切れません。両方が同時に起きている、と捉えるのが正確です。歳を重ねると体を動かす量が減るのは、更年期に限った話ではありませんが、この時期に重なることで、体への影響がより大きくなっている可能性があります。

4. ホルモン補充療法(HT)と内臓脂肪——結論が分かれている

「更年期の体の変化には、ホルモン補充療法(HT)が効くのでは」と考える方もいるかもしれません。この点については、研究によって結論が分かれています。

先ほどのSWAN研究(Greendale氏ら、2019年)では、HTを使っているかどうかは、体の変化に、統計的に意味のある影響を与えなかった、と報告されています(ただし、この研究ではHTを使っている人の数が少なかった、という限界も論文の中で書かれています)。

一方、スイスで行われたOsteoLausという研究(Papadakis氏ら、2018年)では、閉経後の女性(50〜80歳)1,053人を対象にした調査で、HTを使っている人は、使っていない人に比べて、統計的に意味のある差で内臓脂肪が少ないという関連が報告されています。

なぜ二つの研究で結論が違うのでしょうか。理由の一つに、研究のやり方の違いがあります(SWANは長期間追いかける「縦断研究」、OsteoLausはある一時点を比べる「横断研究」)。またOsteoLausの研究チーム自身も、「HTを使い続けている人は、もともと健康に気を配っている人が多いかもしれない」という偏り(選択バイアス)を否定できない、と論文の中で認めています。対象もスイス人女性(大部分が白人)に限られています。

このように、HTと体の変化の関係については、今のところ、はっきりした結論は出ていません。この記事ではこれ以上深く触れませんが、HTを選択肢として考えたい場合は、婦人科医に相談することをおすすめします。

なお、ここで紹介したOsteoLausの研究や、次の章で紹介する運動の研究は、どちらも「閉経後」の女性が対象で、年齢は50代から80代までと幅広く含まれています。更年期(45〜55歳頃)に絞ったデータではない点に、注意してください。

5. できることは何か——運動という切り口

ホルモンや生活習慣の変化が体に影響するとして、何か対策はあるのでしょうか。この点については、運動の効果を調べた研究があります。

Khalafi氏らによるメタ解析(2023年、複数の研究をまとめて分析する手法)は、閉経後の女性を対象にした101件のランダム化比較試験、合わせて5,697人分のデータをまとめたものです。その結果、運動トレーニングは、筋肉量を増やし、体脂肪や内臓脂肪を減らすのに役立つことが示されています。さらに、有酸素運動は脂肪を減らすのに、筋力トレーニングは筋肉を増やすのに、それぞれより効果的である可能性も示されています。

具体的に、どれくらいの運動量を目安にすればよいかについては、以前の記事「リバウンドを防ぐには?」で、アメリカスポーツ医学会(ACSM)の基準を詳しく説明していますので、そちらをご覧ください。

まとめ

ここまで見てきたように、「更年期になると代謝が壊れる」という言い方は、正確ではありません。より正確に言うなら、体重そのものが急に増えるのではなく、体の中身(脂肪と筋肉の割合)が変わる、期間の決まった移行期だということです。

この記事では、その中心にある「更年期移行期」(閉経の前後数年間)と、その先の「閉経後」(もっと広い年齢層)という、2つの異なる時期の研究を紹介してきました。前者では、ホルモンの変化と生活習慣の変化が同時に体に影響し、後者では、運動の効果や、結論が分かれているホルモン補充療法について見てきました。

また、ここで紹介したデータの多くは海外の研究によるものです。SWAN研究で見たように、日本人女性では、必ずしも同じ変化が同じ強さで起こるとは限りません。

以前の記事で、「基礎代謝が実際に下がり始めるのは50代以降」という結論をお伝えしましたが、今回見てきた更年期移行期や閉経後のデータは、まさにこの時期と重なっています。裏を返せば、この時期こそ、運動などの対策が効果を発揮しやすいタイミングだとも言えるでしょう。

参考文献

  1. 1 Greendale GA, et al. (2019) Changes in body composition and weight during the menopause transition. JCI Insight. 4(5):e124865.: 全文
  2. 2 Mauvais-Jarvis F, Clegg DJ, Hevener AL. (2013) The role of estrogens in control of energy balance and glucose homeostasis. Endocrine Reviews. 34(3):309-338.: 全文
  3. 3 Lovejoy JC, et al. (2008) Increased visceral fat and decreased energy expenditure during the menopausal transition. International Journal of Obesity. 32(6):949-958.: 全文
  4. 4 Papadakis GE, et al. (2018) Menopausal Hormone Therapy Is Associated With Reduced Total and Visceral Adiposity: The OsteoLaus Cohort. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 103(5):1948-1957.: 全文
  5. 5 Khalafi M, et al. (2023) The effects of exercise training on body composition in postmenopausal women: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Endocrinology. 14:1183765.: DOI
  6. 6 厚生労働省「健康日本21(第三次)」(2023年公表): 厚生労働省

内部リンク: 「代謝が落ちた」は思い込み? / リバウンドを防ぐには?

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歯科医師・ブロガー
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