肥満とやせ、それぞれの治療はどう進む?一次資料でわかる基本の流れ
「体重が多すぎる」も「少なすぎる」も、なんとなく体に良くないというイメージがあります。しかし、肥満とやせは、原因も治療の考え方もまったく異なる問題です。
この記事では、日本肥満学会や厚生労働省、AMED(日本医療研究開発機構)、そして国際的な学術論文といった一次資料をもとに、肥満とやせ、それぞれの治療がどのように進むのかを整理します。
肥満の問題点 — なぜ治療が必要なのか
まず知っておきたいのは、「肥満」そのものはすぐに体に悪い影響を与えるわけではないという点です。肥満とは、単に体重が多い状態を指す言葉であり、それ自体が病気というわけではありません。
日本肥満学会の基準では、BMI(体格指数)が25以上を「肥満」、35以上を「高度肥満」と呼びます。ただし、これはあくまで体格の分類です。治療が必要かどうかを決める基準は、また別にあります(この基準は後の章で詳しく説明します)。
肥満が問題になるのは、それによって体に何らかの不調(健康障害)が起きたときです。「肥満症診療ガイドライン2022」(日本肥満学会)では、肥満と関係が深い健康障害として、次の11個が挙げられています。
- 血糖値が下がりにくくなる状態(2型糖尿病など)
- 脂質異常症(コレステロールや中性脂肪の異常)
- 高血圧
- 高尿酸血症・痛風
- 心筋梗塞や狭心症などの心臓の病気
- 脳梗塞などの脳の血管の病気
- 脂肪肝
- 月経異常・女性の不妊
- 睡眠時無呼吸症候群
- 膝や股関節などの運動器の病気
- 肥満に関連した腎臓の病気
これらの不調は、それぞれバラバラに起こるというより、お腹まわりにたまる「内臓脂肪」を中心につながって起こる傾向があります。内臓脂肪が増えると、体がインスリン(血糖値を下げるホルモン)をうまく使えなくなり、血糖値や血圧が上がりやすくなります。また、内臓脂肪から出る脂肪酸が肝臓に流れ込むことで、脂質の異常も起こりやすくなります。血糖・血圧・脂質の異常が重なるほど、血管が硬くなる病気(動脈硬化性疾患)のリスクは高まっていきます。つまり、肥満に伴う不調は一つひとつ別々に見るのではなく、内臓脂肪を中心にした一連の流れとして理解するとわかりやすいのが特徴です。
また、同じ体重・同じBMIでも、脂肪がどこについているかでリスクの大きさは変わります。内臓のまわりにつく「内臓脂肪型肥満」は、皮膚の下につく「皮下脂肪型肥満」より、生活習慣病になりやすいことがわかっています。
肥満の予防 — 発症前にできること
治療が必要な「肥満症」になる前に、日常でできる予防があります。厚生労働省のe-ヘルスネット「肥満と健康」では、次のような考え方が示されています。
肥満の予防・治療でまず大事なのは、食事でとるエネルギーと運動などで消費するエネルギーのバランスを整えることです。ただし、極端な食事制限は長続きしないうえ、心にも負担をかけてしまいます。
具体的には、「食べすぎない」ことだけでなく、つい摂りすぎてしまいがちな間食やお酒にも気を配ることが勧められています。食事を抜いたり、食事の時間がバラバラになったりする「食事のリズムの乱れ」を見直すことも大切です。
運動については、特別なトレーニングを新しく始めるというより、通勤で歩く・階段を使うといった、普段の生活の中の動きに運動を取り入れて、続けやすくすることが大切だとされています。
こうした日常レベルの対応で改善しない場合や、すでに健康障害が出ている場合には、次の章で説明する医療機関での治療が必要になります。
肥満症の治療の流れ
ここからは、実際に医療機関での治療が必要になった場合の流れを見ていきます。
「肥満」と「肥満症」の違い
先ほど触れた通り、肥満はBMI25以上という体格の分類にすぎません。これに対して、肥満に関係する健康障害を一つ以上持っている場合、または内臓脂肪型肥満に当てはまる場合に、初めて「肥満症」と診断されます。BMI35以上でこれらの条件を満たすと「高度肥満症」となります。「肥満症」と診断されて、はじめて医学的な治療の対象になるという流れです。
治療のゴールは「体重を減らすこと」ではない
肥満症診療ガイドライン2022では、治療の目的は体重を大きく減らすことそのものではなく、肥満に伴う健康障害を防いだり、改善したりすることだと説明されています。この考え方は、これから紹介する治療の各段階を理解するうえで大切な前提です。
治療の3段階
治療はおおむね次の3段階で進みます。
①食事・運動・行動療法
まずは薬を使わない方法から始まります。肥満症の場合は今の体重の3%以上、高度肥満症の場合は5〜10%の減量を目標に、3〜6か月かけて食事療法・運動療法・行動療法に取り組みます。この3%という目標は、その程度の減量でも血糖値や血圧の数値に実際の改善が見られるという根拠に基づいて決められたものです。数字だけ見ると控えめに感じるかもしれませんが、「大きく減らす」ことより「無理なく続けられる範囲で体の不調を改善する」ことが目的だと考えると、この目標設定の意図がわかりやすくなります。
運動については、ACSM(米国スポーツ医学会)が2024年に発表した声明が参考になります。それによると、少なくとも週150分の中強度の運動を行うことで、減量や体重増加の予防に効果があり、運動量が多いほど効果も高まるとされています。減らした体重を長く維持したい場合は、週200〜300分がひとつの目安です。ただし、運動だけで大きな減量を狙うというより、薬による治療や手術と組み合わせる中の一つとして考えるのが実際に近いでしょう。
②薬物療法
食事・運動・行動療法だけでは十分に減量できない場合や、合併症が重く、急いで減量する必要がある場合には、薬による治療が併せて検討されます。
③外科治療
高度肥満に対しては、胃を小さくするなどの手術(減量・代謝改善手術)が選択肢になります。こうした手術が広まったことや、新しい治療薬の開発が進んだことも、2022年にガイドラインが改訂された背景の一つです。
なぜ「やせ」が社会問題なのか — データで見る背景
ここからは、やせについて見ていきます。「やせ」を扱う前に、まず言葉を整理しておきましょう。「やせ」「やせ願望」「神経性やせ症(AN)」は、似ているようで指している内容が違うからです。
- やせ:BMIなどで見て、体重が少ない「状態」を表す言葉
- やせ願望:自分の体を実際より太っていると感じてしまう、心の状態
- 神経性やせ症(AN):DSM-5などの診断基準に当てはまる、精神疾患としての「病名」
この3つを分けて考えることが、この先の章を理解する土台になります。
データで見る「やせ」の実態
厚生労働省の令和5年(2023年)国民健康・栄養調査によると、20〜30代女性の20.2%が「やせ」(BMI18.5未満)に当てはまります。若い女性の5人に1人以上が該当する数字です。
あわせて見過ごせないのが、実際の体格と自分自身の感じ方のズレです。e-ヘルスネット「肥満と健康」では、若い女性のうち「自分は太っている」と思っている人の半数以上が、実際には標準体重以下だという実態が指摘されています。つまり多くの若い女性が、実際の体格とは関係なく「自分は太っている」と感じている可能性があるということです。
厚生労働省 e-ヘルスネット「若い女性の『やせ』と健康・栄養問題」では、若い女性のやせは本人の健康問題だけでなく、将来の妊娠・出産で赤ちゃんが小さく生まれるリスク(低出生体重児)など、次の世代の健康にも関わる問題として捉えられていると説明されています。
「やせ願望」への心理的アプローチ — 不協和法という選択肢
「やせ願望」そのものは病名ではありませんが、そのままにしておくと神経性やせ症などの摂食障害につながりかねないリスクの一つだと考えられています。そのため、重症化する前の段階で、心の面から予防するアプローチが重要になります。
その中でも、現時点でもっとも研究が積み重ねられているのが「不協和法」と呼ばれる方法です。
不協和法の仕組み
不協和法は、社会心理学の「認知的不協和理論」を応用した心理的な働きかけです。この理論では、自分の考えと行動が食い違っているとき、人は心地悪さ(不協和)を感じ、それを解消するために自分の考えの方を行動に合わせて変えようとする、と考えられています。
この理論を実際のプログラムにしたものが「Body Project」という取り組みです。自分の体型に不満を持っている若い女性たちが、グループの中で「痩せていることが良いとされる社会の価値観(痩身理想)」を、自分自身の言葉で批判するワークに取り組みます。話し合ったり、文章に書いたり、寸劇にしたりする形で「痩せていることが一番良いというのはおかしい」と自ら主張することで、本音(痩せた体への憧れ)と行動(その憧れを否定する発言)の間にズレが生まれます。このズレ(不協和)を解消しようとする中で、参加者自身の「痩せた体への憧れ」が少しずつ弱まっていく、という仕組みです。
どのくらいの効果が確認されているのか
Stice, Marti, Shaw, & Rohde (2019)によるメタ分析では、56件の試験・68のプログラム・参加者7,808人を対象に、不協和法の効果が調べられています。その結果、痩せた体への憧れの強さやボディイメージへの不満、無理なダイエット行動、摂食障害の症状のいずれについても、意味のある改善が見られました。
この研究のもとになっているのが、Stice, Shaw, & Marti (2007)による、もっと広い範囲の摂食障害の予防プログラムをまとめた基盤的な研究です。不協和法は、その中でも、別の研究グループによって効果が再現された数少ない方法として位置づけられています。
過大な期待は禁物
一方で、いくつか気をつけたい点も指摘されています。
- 効果には年齢差があり、思春期の後半以降で効果が大きく出る一方、中学生くらいの年代を対象にしたプログラムでは、摂食障害の症状そのものが減ったという結果は今のところ報告されていません。
- 高校生を対象にした実際の現場での試験では、期待されたほどの効果が出なかったという報告もあります。
- 不協和法は「すでに自分の体型に不満を持っている人」を対象にした方法であり、誰にでも一律に効果があるわけではありません。
「今のところもっとも研究が積み重ねられている方法だが、万能ではない」というのが、一次資料から読み取れる実態です。「不協和法が良さそうだ」という結論だけが独り歩きしないよう、対象や条件が限られている点は特に押さえておきたいところです。
やせ・神経性やせ症(AN)の治療の流れ
こうした心の面からの働きかけで対応できるのは、あくまで発症する前や、症状が軽いうちまでです。すでに低体重や食べ方の異常が進んでいる場合は、専門的な医療の対象になります。
まず体の病気がないかを調べる
やせの原因は摂食障害だけとは限りません。甲状腺の働きが強くなりすぎる病気などのホルモンの異常、栄養をうまく吸収できない消化器の病気、悪性腫瘍(がん)など、さまざまな体の病気がやせの原因になることがあるため、まずはこうした病気がないかを調べます。
体と心、両方の治療を同時に進める
AMED(日本医療研究開発機構)の研究事業として作られた「神経性やせ症(AN)初期診療の手引き」では、体の面(栄養状態や体内の電解質バランスの管理)と、心の面の治療を同時に進める必要があるとされています。低体重の状態が続くと、考える力や集中力が落ちたり、心理療法の効果が出にくくなったりといった悪影響も出てくるため、まずは体の状態を安定させることが優先されることが多いです。
専門の医療機関に紹介する目安
この手引きでは、専門の医療機関への紹介について、次のような目安が示されています。
- 治療を始めた後に体重が減ってしまう場合は、できるだけ早く専門の医療機関への紹介を検討する
- 体重の回復が止まっている場合は、1か月ごとに回復の見込みを確認し、専門の医療機関への紹介を検討する
また、本来の標準体重に対して今どのくらいの体重かによって、日常生活をどこまで制限すべきかの目安も示されています。
| 標準体重に対する割合 | 体の状態 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 55%未満 | 命に関わる症状が出るおそれ | 入院が絶対に必要 |
| 55〜65% | 最低限の生活にも支障が出る | 入院が望ましい |
| 65〜70% | 軽い作業に支障が出る | 自宅療養でも良い |
| 70〜75% | 軽い作業ならできる | 制限つきで学校や仕事に行ける |
| 75%以上 | 普段通りの生活ができる | 特に制限なし |
つまり、体重が今も減っているか回復が停滞しているかによって専門施設への紹介タイミングが決まり、標準体重に対する割合によって、通常の生活が送れる段階から入院が必要な段階まで、日常生活の制限レベルが細かく判断されます。
まとめ
肥満とやせ、どちらも自己判断で何とかしようとするのではなく、まずは医療機関で自分の状態を正しく知ることが基本です。肥満であれば、健康障害が出ているかどうかが治療の必要性を左右しますし、やせであれば、その背景に体の病気が隠れていないかを確かめることがまず必要です。
また、重症化してから対処するだけでなく、重症化する前の段階でできることもあります。肥満であれば日常での食事・運動のバランスの見直し、やせ願望であれば不協和法のような心の面からのアプローチが、それぞれ予防の選択肢として研究の積み重ねがあります。
「痩せているから安心」「太っているからとにかく痩せなければ」という単純な考え方ではなく、それぞれの状態に応じた正しい理解と対応が、健康を守る第一歩になります。
出典
- 日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」(リンク)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康」(リンク)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「若い女性の『やせ』と健康・栄養問題」(リンク)
- 厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査報告」(リンク)
- Jakicic JM, et al. “Physical Activity and Excess Body Weight and Adiposity for Adults: American College of Sports Medicine Consensus Statement.” (2024)(リンク)
- AMED障害者対策総合研究開発事業「神経性やせ症(AN)初期診療の手引き」(リンク)
- Stice E, Shaw H, Marti CN. “A Meta-Analytic Review of Eating Disorder Prevention Programs: Encouraging Findings.” Annual Review of Clinical Psychology (2007)(リンク)
- Stice E, Marti CN, Shaw H, Rohde P. “Meta-analytic review of dissonance-based eating disorder prevention programs.” Clinical Psychology Review (2019)(リンク)

