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「代謝が落ちた」は思い込み?厚生労働省の基準値とScience誌の研究から検証する30-40代の体重増加

代謝低下を心配する男性
むー

「食べる量は変わっていないのに、20代の頃より太りやすくなった気がする」——30代・40代になって、そう感じたことはありませんか。

その理由としてよく挙げられるのが「基礎代謝が落ちたから」という説明です。加齢とともに代謝が落ちるという話は、健康情報としてよく耳にしますよね。

以前の記事「現代人はなぜ太るのか?研究データから見る4つの理由」では、食環境やNEAT(非運動性熱産生)の低下、睡眠不足、概日リズムの乱れという4つの要因を扱いました。今回はその中身をもう一度掘り下げるのではなく、「基礎代謝が落ちた」という、多くの人がなんとなく信じている思い込みそのものを、一次資料をもとに検証するという記事です。年代は、多くの読者にとって一番身近な「30代・40代」にしぼって見ていきます。

1. 厚生労働省の基準値が、実は示している姿

まず、公式にはどう説明されているのかを見てみましょう。

厚生労働省のe-ヘルスネットには「加齢とエネルギー代謝」というページがあり、加齢とともに基礎代謝量は低下すること、そしてその主な理由は筋肉などの除脂肪量(体から脂肪を除いた部分)が減ることにある、と説明されています。

そのうえで、わかりやすい例として、こんな数字が紹介されています。

体重70kgの男性の場合、基礎代謝量の推定値は、20歳代で1,680kcal、50歳代で1,505kcalとなり、1日でおよそ175kcalの差になります。

この「175kcalの差」という数字だけを見ると、「やっぱり歳をとると着実に代謝が落ちていくんだな」と感じてしまいます。ですが、この数字は体重70kgという仮の条件で計算した、20代と50代の比較です。実は、このままの形で30代・40代に当てはめることはできません。

30-49歳の基準値を見ると、実は横ばい

日本人の食事摂取基準(2015年版)には、実際の年代別・基礎代謝基準値の表が載っています。これを見てみると、少し違った姿が見えてきます。

年齢男性・基礎代謝量女性・基礎代謝量
18-29歳1,520kcal1,110kcal
30-49歳1,530kcal1,150kcal
50-69歳1,400kcal1,100kcal

見ての通り、30-49歳の基礎代謝量は、18-29歳と比べてむしろ横ばい、あるいはわずかに高いくらいです。年齢が上がるほど、この表の基準となる体重も少し重くなるためで、体重1kgあたりで見た代謝率自体は、確かに下がっています。ただ、体全体としての基礎代謝量は、下がるどころかむしろ横ばいです。明確な低下が現れるのは、50-69歳の区分になってからです。

つまり、厚生労働省の公式な基準値そのものが、「30代・40代で基礎代謝が目に見えて落ちる」ということを示していないのです。「代謝が落ちた」というイメージは、20代と50代を比べた説明例が一人歩きした結果なのかもしれません。

2. 最新の大規模研究も、同じ姿を裏付けている

「日本の基準値だけの話では?」と思う方もいるかもしれません。そこで、もう少し精密なデータも見てみましょう。

2021年にScience誌に掲載されたPontzerさんたちの研究は、29カ国・6,421人分のデータを、二重標識水法(水分の動きから消費エネルギーを正確に測る手法)で分析したものです。この研究では、体重や筋肉量の違いを考慮したうえでエネルギー消費量の変化を調べており、次のようなことがわかっています。

  • 20歳から60歳までは、エネルギー消費量にはっきりした変化はなく、ほぼ横ばい
  • 明確な低下が始まる転換点は、63.0歳前後
  • 60歳を過ぎると、1年あたり約0.7%のペースで低下していく
  • 90歳以上になると、中年期と比べて約26%低い水準になる

つまり、厚生労働省の基準値表が示していた「30-49歳では大きな変化がない」という姿は、この大規模な実測研究とも一致しています。

ここで一つ補足しておくと、上で紹介したのは1日の活動全体を含む「総エネルギー消費量」についての転換点です。「基礎代謝量」だけを取り出して見た場合、この研究では低下が始まる年齢の推定値がもう少し早く、46.5歳ごろとされています。ただし論文自身、この年代の基礎代謝データは数が少なく、推定の精度は高くないと断っています。とはいえ全体としては、20〜60歳で安定しているという結論は変わりません。少なくとも30代・40代においては、「歳をとったから代謝そのものが落ちていく」という単純な図式は、公式データからも最新研究からも支持されない、というのがここまでの結論です。

3. では、高齢期の低下はどう説明されているのか

ここで一つ、注意しておきたい点があります。「60代以降に代謝が下がる」という現象自体について、実は研究者の間でも見解が完全に一致しているわけではありません。

St-Onge & Gallagherさんが2010年に発表したレビューでは、「除脂肪量(筋肉など)の減少だけでは、高齢期のエネルギー消費量の低下を説明しきれない」という立場が示されています。除脂肪量の変化とは別に、内臓などの臓器そのものの代謝率が下がっている可能性がある、という指摘です。

これはPontzerさんたちの研究と矛盾するものではありません。両者はどちらも「高齢期(主に60代以降)に低下が起きる」という点では一致しており、その原因が除脂肪量の減少だけなのか、臓器の代謝率低下も加わっているのか、という、より細かい点で見解が分かれているだけです。30代・40代の話には影響しません。

4. 筋肉量は?「30代から減る」という話の正確なところ

代謝と並んでよく語られるのが、「筋肉は30代から減っていく」という話です。これも確認してみましょう。

Janssenさんたちが2000年に発表した、468人を対象にしたMRIベースの大規模な研究では、次のようなことがわかっています。

  • 体重に占める筋肉の割合は、20代後半から30代にかけて緩やかに下がり始めるとされる(ただし、正確な開始年齢は測定方法によって見解が分かれています。詳しくは次の項目で紹介します)
  • 一方で、筋肉の量そのものが目に見えて減り始めるのは、50歳前後になってから

つまり「筋肉が減り始める年齢」は、何を基準にするかで答えが変わります。「体全体に占める割合」で見ればもっと早い段階からの緩やかな変化と言えますが、「筋肉の量そのもの」で見ればもっと後の話になるということです。

さらに、Mitchellさんたちが2012年に発表したレビューでは、この「開始年齢」自体が研究によってバラバラであることも指摘されています。測定方法や対象者によって、減少が始まる年齢は27歳(Silvaさんたちの研究)、45歳(先ほどのJanssenさんたちの研究)、60歳(Kyleさんたちの研究)と、大きくばらついているのです。

なお「サルコペニア」という、筋肉量の減少を指す医学的な概念自体は、高齢者に限定されるものではないとされています(2019年改訂のEWGSOP2という国際的な定義でもそう明記されています)。ただしこれは、病気や体を動かさない状態がきっかけで、若い人にも起こりうる、という定義上の話です。健康な30代・40代の方が心配すべき話ではないので、念のため補足しておきます。

ここまでをまとめると、30代・40代では、体に占める筋肉の割合がゆるやかに変化し始めてはいるものの、筋肉の量そのものや、体全体のエネルギー消費量への影響は限定的、というのが実際のところです。

5. では、「太りやすくなった」感覚の正体は何なのか

ここまで見てきた通り、30代・40代において「基礎代謝が明確に落ちている」という証拠は、公式データからも最新研究からも見つかりませんでした。

だとすると、多くの人が感じている「太りやすくなった」という感覚は、どこから来るのでしょうか。ここで効いてくるのが、代謝そのものではなく、日々の活動量や生活環境の変化です。

社会人になって働き方が変わると、日常のちょっとした動き(NEAT)が自然と減っていきます。これが体重への影響として意外と大きい、という話は以前の記事でも触れた通りです。NEATを具体的にどう増やせるかについては、「NEAT(非運動性熱産生)を日常で増やす方法」でまとめていますので、あわせてご覧ください。

まとめ

  • 「20代1,680kcal→50代1,505kcal」という厚労省の説明例は、20代と50代を比べたものであり、30-49歳の基準値は18-29歳とほぼ横ばい
  • Science誌に掲載されたPontzer et al. 2021の大規模研究でも、20-60歳ではエネルギー消費量にはっきりした変化はなく、低下が始まるのは63歳前後
  • 高齢期の低下の原因については研究者間でも見解が分かれるが、これは30-40代の結論には影響しない
  • 筋肉量は、体に占める割合は20代後半から30代にかけて緩やかに変化し始めるとされるが(開始年齢は研究により異なる)、量そのものへの影響は50歳前後まで限定的
  • 「太りやすくなった」感覚の正体は、基礎代謝そのものより、活動量(NEAT)や生活環境の変化にある可能性が高い

「もう歳だから代謝が落ちて仕方ない」と諦めてしまう前に、日々の活動量に目を向けてみることが、実は一番効果的なアプローチかもしれません。


参考文献

  1. Pontzer H, Yamada Y, Sagayama H, et al. Daily energy expenditure through the human life course. Science. 2021;373(6556):808-812. https://doi.org/10.1126/science.abe5017
  2. St-Onge MP, Gallagher D. Body composition changes with aging: the cause or the result of alterations in metabolic rate and macronutrient oxidation? Nutrition. 2010;26(2):152-155. https://doi.org/10.1016/j.nut.2009.07.004
  3. Janssen I, Heymsfield SB, Wang ZM, Ross R. Skeletal muscle mass and distribution in 468 men and women aged 18-88 yr. J Appl Physiol. 2000;89(1):81-88. https://doi.org/10.1152/jappl.2000.89.1.81
  4. Mitchell WK, Williams J, Atherton P, Larvin M, Lund J, Narici M. Sarcopenia, dynapenia, and the impact of advancing age on human skeletal muscle size and strength; a quantitative review. Front Physiol. 2012;3:260. https://doi.org/10.3389/fphys.2012.00260
  5. Cruz-Jentoft AJ, Bahat G, Bauer J, et al. Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis. Age Ageing. 2019;48(1):16-31. https://doi.org/10.1093/ageing/afy169
  6. 厚生労働省. 加齢とエネルギー代謝. e-ヘルスネット.(日本人の食事摂取基準2015年版 基礎代謝基準値). https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-07-002.html

本記事は上記一次資料の内容をもとに執筆しています。個別の数値や研究デザインの詳細については、原文でのご確認を推奨します。

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歯科医師・ブロガー
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