準備期:痩せると決めた日から何をすべきか
はじめに
前回の記事では、行動変容ステージモデル(TTM)の全体像と、「痩せたいけど、まだそんな気にならない」前熟考期・熟考期について見てきました。
今回はその続きです。「近いうちに始めよう」と決めた段階——準備期を取り上げます。
TTMの5段階(前熟考期・熟考期・準備期・実行期・維持期)の中でも、準備期は変わった生まれ方をしています。最初のモデル(Prochaska & DiClemente, 1983)には、準備期という段階は存在していませんでした。後の研究(Prochaska, DiClemente, & Norcross, 1992)で、「考えているだけの人」と「もう動き出している人」、どちらの特徴も併せ持つグループが見つかり、独立した5番目の段階として位置づけ直されたのです。
つまり準備期は、「思っているだけ」から「実際に動く」への橋渡し期間です。この記事では、その橋を渡るために体の中で何が起きていて、具体的に何をすればいいのかを、できるだけ元の研究に基づいて整理していきます。
なお、今回集めた文献は、運動処方の分野でよく参照されるACSM(米国スポーツ医学会)のポジションスタンドのような、系統的レビューとエビデンスの格付けを経た統合文書ではありません。「TTMの準備期×体重管理」というテーマにぴったり当てはまる、そのレベルの統合文書は今のところ存在しないためです。この記事は、禁煙研究由来の理論、食行動全般のメタ分析、単一のRCTなど、隣接する複数の研究を組み合わせて現時点での知見を整理したものである、という前提でお読みください。
1. 準備期で何が起きている
準備期に入った人たちは、大きく2つの傾向が見られるとされています。「天秤がメリット側に傾いていく」ことと、「自分にはできると思う」ことです。
「天秤がメリット側に傾いていく」とはどういうことでしょうか?
TTMには「意思決定バランス」という考え方があります。行動を変えることの「メリット」と「デメリット」、どちらが重いかで行動が決まる、というシンプルなモデルです。Prochaska & Velicer(1997)による12種類の健康行動を横断した調査では、段階が進んだ人たちのグループほど、メリットを重く感じ、デメリットを軽く感じる傾向が一貫して確認されています。「痩せたいけど面倒くさいな」から「面倒でも、痩せた方がいいな」へと、少しずつ気持ちが動いていくイメージです。
もう一つが自己効力感、つまり「自分にはこれができる」という感覚です。心理学者Bandura(1977)が提唱したこの概念は、TTMの研究でも、段階が進んだ人たちのグループほど高くなる傾向が、複数の調査で支持されています。
では、この2つの変化は、具体的にどんな行動や心の動きによってもたらされるのでしょうか。ブラジルのプライマリケアで行われたde Freitas et al.(2020)の研究では、主に次の3つのプロセスを使っています。
①「このままの自分でいいのか」を問い直す(自己再評価)
自分の今の状態を、頭だけでなく感情も込めて捉え直す作業です。
- このままの体型・生活習慣で、5年後の自分は今の自分に納得できるだろうか
- 体型や健康状態は、自分が大切にしているもの(体力、仕事のパフォーマンスなど)とどう関係しているか
- 健康診断の数値や日々の疲れやすさを、「他人事」ではなく「自分の物語」として捉え直してみる
②社会の側の変化に気づく(社会的解放)
世の中に、健康的な行動を後押ししてくれる環境が増えていることに気づく作業です。
- コンビニやスーパーで低糖質・高タンパク商品が明らかに増えていることに、実際に売り場で気づく
- 職場や自治体の健康増進プログラム、特定保健指導があることを確認する
- 同じ目標を持つ人のコミュニティ(SNSやアプリなど)を見つけてみる
③「変われる」と信じて、決める(自己解放)
「自分は変われる」という信念と、それに基づいて行動する意志です。
- 「痩せたい」ではなく「痩せる」と言い切る形で、開始日を決めて誰かに伝える
- 体重計や記録アプリなど、後戻りしにくい環境を先に整えておく
- 過去の失敗を「自分には無理」ではなく「やり方が合っていなかっただけ」と捉え直す
ここで、正直に2つお断りしておきたいことがあります。
1つ目。de Freitas et al.(2020)の研究は、準備期の人だけを対象にしたものではありません。実は参加した女性たちの多くは、調査を始めた時点ですでに実行期・維持期に達していました。論文自体も、このことが介入の効果を弱めた可能性があると認めています。体重が平均1.4kg減ったという結果も、準備期の人に限った効果ではなく、参加者全体に対する個別カウンセリングの効果として報告されたものです。
2つ目。この3プロセスの枠組みは、もともと禁煙研究から来ています。体重管理の文脈でそのまま裏付けられているわけではありません。体重管理専用の尺度を検証したAndrés et al.(2011)の研究では、むしろ4つの因子に整理し直した構造の方が支持されています。TTMを体重管理に応用する試みはいくつもありますが、禁煙研究ほどきれいに構造が一致しているわけではない、というのが正直なところです。
2. 「決めたこと」を「できること」に変える:if-thenプラン
準備期に何が起きているかはわかりました。では、具体的に何をすればいいのでしょうか。ここで最も裏付けが強いのが、実行意図(if-thenプラン)という手法です。
基本の考え方
心理学者Gollwitzerが提唱した実行意図は、「もし〇〇したら、△△する」と、状況と行動をあらかじめセットで決めておく計画法です。Gollwitzer & Sheeran(2006)が94件・8,000人以上を対象にまとめたメタ分析では、目標達成に対して中〜大程度の効果(d=.65)が確認されています。「痩せたい」と漠然と思うだけの状態に比べ、「いつ・どこで・どうやるか」を先に決めておくだけで、実際にやり遂げる確率がはっきり上がるということです。
設計の3つのコツ
- 否定形(〜しない)ではなく、肯定形(〜する)で書く
- 「いつ」「どこで」を具体的にする
- 代替行動を先に用意しておく(その場で考えない)
具体例
| 状況(If) | 行動(Then) |
|---|---|
| 帰宅して疲れて夕食を作る気力がない時 | 冷凍庫にストックしてある作り置きの主菜を電子レンジで温める |
| 会議の合間に小腹が空いた時 | デスクに置いてあるナッツか無糖ヨーグルトを1つ食べる |
| 飲み会に誘われた時 | 最初の1杯はハイボールか焼酎の水割りを頼む |
| 休日の昼、特に予定がない時 | 前日の夜に決めておいた散歩ルートを30分歩く |
| 体重が増えていて落ち込んだ時 | その日の食事記録だけはつける(量を変えようとしない) |
ポイントは、その場の判断に頼らず、あらかじめ決めておくことです。
なぜ肯定形の方が効きやすいのでしょうか。食行動に絞って調べたAdriaanse et al.(2011)のメタ分析(23研究)では、興味深い違いが見つかっています。
- 健康的な食品を「増やす」方向のプラン:d = .51
- 不健康な習慣を「減らす」方向のプラン:d = .29
「やめる」プランより「やる」プランの方が効きやすい、ということです。「お菓子を食べない」という我慢の計画よりも、「小腹が空いたらナッツを食べる」という、代わりに何をするかまで決めた計画の方が、実際に実行されやすいと考えられます。
ここで注意したいのは、「増やす」というのは「食べる量を上乗せする」という意味ではないということです。上の表の例は、いずれも不健康な選択肢を健康的な選択肢に置き換えるプランになっています。同じ場面で「何もしない・我慢する」ではなく「代わりに何をするか」を具体的に決めておくと実行されやすい、というのがポイントであって、単純に食べる量を増やせばいいという話ではありません。摂取カロリーを抑えたい場合も、この「置き換え型」のif-thenプランであれば、狙い通りカロリー抑制につながります。
準備期のうちに、こうした「もしも」のシナリオを2つ3つ用意しておくと、次の実行期への移行がぐっとスムーズになります。
3. 日本の保健指導現場でも、実は近い発想がある
「あらかじめ具体的に決めておく」という発想は、日本の公的な保健指導とも方向性が重なります。厚生労働省の「標準的な健診・保健指導プログラム」では、対象者がどの行動変容のステージにいるかを踏まえて行動目標・行動計画を立て、本人が実行できる行動を自分で選び取れるよう支援することが示されています。
いきなり大きな目標を掲げるのではなく、その人の状態に合わせて実行可能なところまで落とし込む、という考え方は、Gollwitzerの実行意図と方向性を同じくしています。海外の実証研究と、日本の現場での保健指導、それぞれ別々に発展してきたはずなのに、「具体的な行動レベルまで落とし込む」という同じ結論にたどり着いているのは、なかなか興味深いところです。
4. 焦って始める前に
ここまで、準備期にできる具体的な工夫を紹介してきました。最後に、一つだけ気をつけたいことを書いておきます。
NIH(米国国立衛生研究所)が運営するデータベースに掲載されている医学参考書(StatPearls)では、Norcross, Krebs, & Prochaska(2011)を引用する形で、準備期に十分な情報収集や計画をしないまま実行期へ進んでしまうと、壁にぶつかりやすく、リバウンドも起きやすいと指摘されています。これは元の研究そのものではなく、レビュー論文からの孫引きであることは断っておきます。
一方で、DiClemente et al.(1991)のデータでは、1ヶ月以内に1段階でも先へ進んだ人は、その後6ヶ月以内に実際の行動へ移る確率が2倍になる、という前向きな数字も報告されています。
この2つを合わせると、伝えたいことはシンプルです。焦って飛び込む必要はないけれど、準備期にずっと足踏みし続ける必要もない。 完璧な準備を整えてから、ではなく、「もしも」のシナリオを2つ3つ決めておく程度で、十分に前へ進めます。
まとめ
準備期は、「思っている」から「している」への橋渡しの期間です。
- 天秤がメリット側に傾き、「自分にはできる」という感覚が育ち始めている
- 「自己再評価」「社会的解放」「自己解放」という3つの心の動きが、具体的な小さな行動に落とし込める
- if-thenプランは、否定形より肯定形で作ったほうが実行されやすい
- 準備は大切。でも、完璧を目指す必要はない
次回は、実際に動き出した後の「実行期」——一番つまずきやすいこの段階を、どう乗り越えるかを扱います。
参考文献
- Prochaska, J. O., & DiClemente, C. C. (1983). Stages and processes of self-change of smoking: toward an integrative model of change. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 51(3), 390-395.
- Prochaska, J. O., DiClemente, C. C., & Norcross, J. C. (1992). In search of how people change: applications to addictive behaviors. American Psychologist, 47(9), 1102-1114.
- Prochaska, J. O., & Velicer, W. F. (1997). The transtheoretical model of health behavior change. American Journal of Health Promotion, 12(1), 38-48.
- DiClemente, C. C., Prochaska, J. O., Fairhurst, S. K., Velicer, W. F., Velasquez, M. M., & Rossi, J. S. (1991). The process of smoking cessation: an analysis of precontemplation, contemplation, and preparation stages of change. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 59(2), 295-304.
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191-215.
- de Freitas, P. P., de Menezes, M. C., dos Santos, L. C., Pimenta, A. M., Ferreira, A. V. M., & Lopes, A. C. S. (2020). The transtheoretical model is an effective weight management intervention: a randomized controlled trial. BMC Public Health, 20, 652.
- Andrés, A., Saldaña, C., & Gómez-Benito, J. (2011). The transtheoretical model in weight management: validation of the processes of change questionnaire. Obesity Facts, 4(6), 433-442.
- Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: a meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69-119.
- Adriaanse, M. A., Vinkers, C. D., De Ridder, D. T., Hox, J. J., & De Wit, J. B. (2011). Do implementation intentions help to eat a healthy diet? A systematic review and meta-analysis of the empirical evidence. Appetite, 56(1), 183-193.
- Norcross, J. C., Krebs, P. M., & Prochaska, J. O. (2011). Stages of change. Journal of Clinical Psychology, 67(2), 143-154.
- 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム」

