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日本人は太りやすい?太りにくい?-インスリンとメタボリックシンドロームから考える

日本の肥満問題を示す生活習慣インフォグラフィック
むー

「日本人は太りやすい」という話を聞いたことがある人は多いと思います。一方で「日本人はもともと太りにくい体質だ」という真逆の説も、ネットにはよくあります。おもしろいことに、どちらの説も「インスリン」という言葉を根拠にしていることが多いです。

実際のところ、日本人は太りやすいのでしょうか?それとも太りにくいのでしょうか?この疑問を、インスリンという視点から見ていきます。

そのあとは話を変えて、「では今、増えているメタボリックシンドロームの原因は何なのか」を、厚生労働省の発表をもとに考えます。

Part1:日本人は太りやすい?太りにくい?

第1章:日本人は太りやすい?インスリンから見る本当の理由

1-1. 「太りやすさ」は何で決まるのか

「日本人は太りやすい」「いや、太りにくい」という正反対の説をたしかめるには、まず「太りやすさ」を何で判断すればいいのかを整理しておく必要があります。

手がかりの一つは体の作りです。同じBMI(体格指数)でも、東アジア人の方が体脂肪率が高くなりやすいことは、いくつもの研究でわかっています。ただしこれは「同じBMIで比べたときの体脂肪率の差」であって、「実際に脂肪がつきやすいかどうか」という動きそのものを調べたものではありません。ここは注意が必要です。

そこでもう一つの手がかりになるのが、体の代謝に関わるホルモン「インスリン」です。ネットにある正反対の説も、多くはこのインスリンを根拠にしています。ここから先は、インスリンの働きをもとに、この疑問を考えていきます。

1-2. インスリンは本来「脂肪を溜め込む」方向に働くホルモン

インスリンは膵臓から出るホルモンで、血液中の糖を細胞に取り込ませる働きを持っています。この働きは筋肉や肝臓だけでなく、脂肪の細胞にも及びます。つまり、余った糖や脂肪を脂肪として蓄える方向にも働くのです。言い換えると、インスリンは体にエネルギーを溜め込ませる方向に働くホルモンだということです。

このインスリンをめぐって、よく言われるのが「東アジア人はインスリンを出す力が欧米人より弱い」という話です。一部の研究ではこの傾向が見られますが、規模の大きい研究でも同じことが言えるのか、たしかめてみましょう。

1-3. 「東アジア人はインスリンを出す力が弱い」は、規模の大きい研究でも言えるのか

複数の研究をまとめたメタ解析(研究をたくさん集めて統合する手法)でたしかめてみます。

Liさんたちの解析(2021年、118件のコホート、76,354人分)では、年齢・体格(BMI)・性別をそろえて比べると、東アジア人のインスリンを出す力は、欧米人やアフリカ系の人たちとほぼ同じ水準になったという結果が出ています。単純に比べると差があるように見えても、体格をそろえると、その差はかなり小さくなるということです。

つまり「東アジア人はインスリンを出す力が弱い」というより、「体格の違いが、その見かけ上の差を生んでいる可能性が高い」ということです。

1-4. では何が言えるのか

ここまでの内容をまとめると、「東アジア人はインスリンを出す力が弱いから、太りやすい(あるいは太りにくい)」という説明は、根拠が薄いということになります。単純に見えた民族差は、体格の違いでかなりの部分が説明できてしまうからです。

つまり、「日本人は太りやすい」も「日本人は太りにくい」も、インスリンを根拠にした説明としては、どちらも成り立ちません。

まとめ

ここまでの内容をまとめると、次のようになります。

  • 体の作り(体脂肪率の民族差)はたしかめられているが、これは今の体脂肪率の差であって、脂肪がつきやすいかどうかの証明ではない
  • インスリンは本来、脂肪を溜め込む方向に働くホルモンである
  • 「東アジア人はインスリンを出す力が弱い」という話は、規模の大きいメタ解析では、体格をそろえると差の多くが説明されてしまう
  • つまり、インスリンを根拠にした「太りやすい」「太りにくい」という説明は、どちらも成り立たない

つまり、「日本人は太りやすい」も「日本人は太りにくい」も、インスリンを根拠にした説明としては、今のデータから導くことはできません。

Part2:では、日本人のメタボリックシンドロームが増えている原因は?

Part 1では、体質についての話を整理しました。ここからは話を変えて、「実際に日本でメタボリックシンドロームの人や予備群が増えているのはなぜか」という、別の疑問を見ていきます。

第2章:メタボの今の状況と厚生労働省の見解

2-1. メタボリックシンドロームとは何か

メタボリックシンドロームとは、お腹まわりに脂肪がたまる「内臓脂肪型の肥満」に加えて、高血糖・高血圧・脂質異常のうち2つ以上を併せ持った状態のことです。単にお腹まわりが大きいだけでは当てはまりません。内臓脂肪がたまっていることを土台として、いくつもの代謝の異常が重なっている状態がポイントです。2005年に日本内科学会など8つの学会が集まって診断基準を決め、2008年からは40歳以上を対象にした「特定健診(メタボ健診)」が始まっています。

2-2. 増えている実態

厚生労働省の資料によると、メタボリックシンドロームが強く疑われる人と予備群を合わせた割合は、40歳以上では男性で2人に1人、女性で5人に1人にのぼるとされています。一方、特定健診を受けた人に限ると、2022年度に受診した約3,017万人のうち、メタボリックシンドローム該当者・予備群は合わせて875万8,151人、割合にして29.0%(男性42.4%、女性12.9%)という結果が出ています。

2-3. 厚生労働省が挙げている原因

厚生労働省は、生活習慣病全体が増えている背景について、次のように説明しています。がんや心臓病、脳卒中などによる死亡が増えているのは、年齢や遺伝だけでは説明できず、よくない食生活、運動不足、飲み過ぎ、喫煙、ストレスといった生活習慣が深く関わっていることがわかってきている、としています。

食事については、より具体的な説明もあります。厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」では、脂肪から摂るエネルギーの割合(脂肪エネルギー比率)の目標を20〜30%としています。下限の20%は必須脂肪酸の摂取量から、上限の30%は肥満や糖尿病の予防、死亡率に関するコホート研究の知見をふまえて設定されたものです。

ここで注目したいのは、厚生労働省の説明の中に、体質的な要因(インスリンを出す力が弱いことや、遺伝的な傾向など)への直接的な言及が見当たらない点です。厚労省が挙げているのは一貫して、食生活や運動習慣といった、個人や社会の努力で変えられる生活習慣の要因です。

2-4. 特に増えていると指摘されている層

年代別に見ると、20〜30代の若い男性で、リモートワークやIT化にともなう運動不足を背景に、内臓脂肪型の肥満が増える傾向にあることも指摘されています。放っておくと40代以降に心臓病や脳梗塞のリスクが上がるとして、若い世代からの対策の必要性が呼びかけられています。

まとめ

メタボリックシンドロームが増えているという現象について、厚生労働省が公式に説明している原因は、食生活の変化や運動不足といった生活習慣の要因です。体質的な要因については、行政の説明の中では特に触れられていません。

全体のまとめ

この記事では、あえて2つの疑問を分けて考えました。

  • Part 1:「日本人は太りやすいのか」という体質についての疑問は、体の作りのデータも、インスリンを出す力のデータも、規模の大きい研究でたしかめると、「太りやすい」「太りにくい」のどちらの説明も支えきれませんでした。
  • Part 2:「なぜメタボリックシンドロームが増えているのか」という別の疑問については、厚生労働省は食生活の変化や運動不足といった、生活習慣の側に原因を置いています。

体質と生活習慣は、別の情報にもとづく別々の答えです。無理につなげず、それぞれ独立した話として理解しておくのがよいと思います。

参考資料

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歯科医師・ブロガー
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