「ゼロカロリー」は本当にゼロ?食品表示基準のからくりを一次資料で読み解く
コンビニやスーパーの飲料コーナーには、「カロリーゼロ」「ゼロカロリー」と書かれた商品がたくさん並んでいます。ダイエット中なら、つい安心して手に取りたくなる表示です。
でも、この「ゼロ」は、厳密には「カロリーがまったく無い」という意味ではありません。食品表示のルールでは、ある基準値を下回ってさえいれば「ゼロ」と表示してよいことになっているのです。
この記事では、「ゼロカロリー」表示のからくりを、次の3つの角度から一次資料をもとに見ていきます。
- そもそも法律上、「ゼロ」はどう決められているのか
- その裏で使われている甘味料は、安全なものなのか
- 「ゼロ」という表示そのものが、私たちの食べ方にどう影響するのか
なお、この記事で扱うのは「カロリー」の表示だけです。「糖類ゼロ」「糖質ゼロ」は対象になる成分も基準も違うので、今回は扱いません。また、人工甘味料そのものにダイエット効果があるかどうかは、別記事で詳しく検証しているので、この記事の後半で紹介します。
1. 「ゼロ」「オフ」の法的な基準
「ゼロカロリー」「カロリーオフ」は、企業が好きに使ってよい言葉ではありません。国が定めた「食品表示基準」という決まりの中で、使ってよい条件がしっかり決められています。
熱量(カロリー)についての基準は、次の通りです。
- 「含まない」(=「ゼロ」「フリー」など):食品100gあたり、または飲み物100mlあたり5kcal未満
- 「低い」(=「オフ」「ライト」など):食品100gあたり、または飲み物100mlあたり40kcal以下(飲み物は20kcal以下)
ここでのポイントは、「含まない」の基準が「5kcal未満」であって、「0kcalぴったり」を求めているわけではないということです。つまり、100mlあたり4.9kcalの飲み物でも、堂々と「ゼロ」と表示してよいのです。これが「ゼロカロリー」表示の一番大きな「からくり」です。
なお、「ゼロ」と「オフ」は基準がまったく違う、別の表示です。「オフ」と書かれた商品は、「ゼロ」よりずっと多くのカロリーを含んでいる可能性があるので、混同しないようにしましょう。
2. 具体例で見る「からくり」
「5kcal未満くらい誤差では」と思うかもしれませんが、これはあくまで「100mlあたり」の話です。実際に飲む量で考えると、印象が変わってきます。
仮に、ある飲み物が基準ぎりぎりの「100mlあたり4.9kcal」だったとしましょう。この場合、
- 500mlのペットボトル1本:4.9kcal × 5 = 計算上、最大で約24.5kcal
- 2Lのペットボトル1本:4.9kcal × 20 = 計算上、最大で約98kcal
となり、どちらも「ゼロカロリー」と表示したまま売ることができます。2Lボトルなら、ご飯茶碗1杯(約150g、234kcal)の半分弱にあたるカロリーが「ゼロ」の看板の裏に隠れていても、ルール上は何の問題もないということです。
ただし、これはあくまで基準ぎりぎりまで使い切った場合の「理論上の最大値」です。実際に売られている「ゼロ」表示の飲み物の多くは、これよりもっと低い数値であることが一般的だと言われています。ですから、「ゼロ表示の商品には実はこれだけカロリーがある」と決めつけるのは言い過ぎです。「そういう可能性もルール上は許されている」くらいに理解しておくのが正確でしょう。
いずれにしても、この基準は消費者庁が決めた正式なルールに基づくものであり、違法でも誇大表示でもありません。「ゼロ」の裏にこういう計算があると知っておくだけで、表示との向き合い方が変わってくるはずです。
3. 甘味はどこから来ているのか:甘味料とその安全性
ここで気になるのが、「では、あの甘さはどこから来ているのか」という点です。ゼロカロリー飲料の多くには、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロースといった、砂糖の数百倍甘い「高甘味度甘味料」が使われています。
ただ、誤解しやすいのですが、表示に残るわずかなカロリー(5kcal未満の部分)は、必ずしもこの甘味料そのものが原因とは限りません。高甘味度甘味料はほんの少量で強い甘みが出せるため、甘味料自体がカロリーの主な原因になっているとは言い切れないのです。つまり、「なぜカロリーが少し残るのか」という話と、「甘味料そのものは安全なのか」という話は、本来別々に考えるべき問いです。ここからは、後者の「甘味料の安全性」について見ていきましょう。
日本では、食品安全委員会がリスクを評価し、その結果をもとに「ADI(一日摂取許容量)」という数値が決められています。ADIとは、「一生涯、毎日摂り続けても健康に悪い影響が出ないと考えられる量」のことです。アスパルテームの場合、ADIは体重1kgあたり1日40mg(JECFA=WHOとFAOがつくる専門家会議が設定)とされています。
2023年7月、IARC(国際がん研究機関)がアスパルテームを「グループ2B(人に対して発がん性がある可能性がある)」に分類し、話題になりました。これについて食品安全委員会は、「IARCの発がん性分類は、がんを引き起こす証拠の強さを示すもの(ハザードの特定)であり、実際にどれくらいリスクがあるかを示すものではない」と説明しています。同じ頃にJECFAが行った再評価でも、ADI(40mg/kg体重/日)は変わりませんでした。
では、実際に私たちはどれくらいアスパルテームを摂っているのでしょうか。令和元年度のデータでは、計算方法によって次のような見積もりが出ています。
- 生産量統計による見積もり(作られた量・輸入された量から計算する、やや余裕を持たせた方法):1人1日あたり6.58mg(ADIの0.3%)
- マーケットバスケット方式(実際にお店で買った食品を分析する、実測に近い方法):1人1日あたり0.055mg(ADIの0.002%)
計算方法によって数字に差はありますが、どちらで見ても、実際の摂取量はADIを大きく下回っています。
同じような傾向は、アセスルファムカリウムやスクラロースなど、他の甘味料でも確認されています。マーケットバスケット方式の調査では、対象となった8種類のうち、ADIが決められている7種類について、いずれもADIの1%を下回っていました。一番高いものでもステビア抽出物の0.25%です(なお、残る1種のグリチルリチン酸には、そもそもADIが設定されていません)。
(なお、このマーケットバスケット調査が発表された令和2年の時点では、食品添加物についての行政は厚生労働省が担当していましたが、2024年4月からこの分野は消費者庁に移りました。一方、ADIのもとになるリスク評価を行う食品安全委員会は、この移管の対象外で、今も独立した立場を保っています。)
つまり、「表示上はゼロと言い切れないカロリーが残っている」という話と、「その甘さを支える甘味料が危険だ」という話は、まったく別の問題だということです。少なくとも今の科学的な知見では、普段の食生活の範囲でこれらの甘味料を摂ることについて、健康上の心配は見つかっていません。
4. 表示は行動にも影響する:ヘルスハロー効果
甘味料の安全性が確認できたとしても、もう一つ見落とせない問題があります。それは、「ゼロ」という表示そのものが、私たちの食べる量・飲む量を変えてしまうかもしれない、ということです。
心理学や消費者行動の研究分野では、「健康的」「低カロリー」といった表示が、かえって食べる量を増やしてしまう現象がたびたび報告されていて、「ヘルスハロー効果」と呼ばれています。
カナダ・トロント大学のProvencher, Polivy & Herman(2009)は、99人の女性大学生を対象に、同じお菓子を「健康的な食品」または「不健康な食品」として見せる実験を行いました。その結果、「健康的」と説明されたときは、「不健康」と説明されたときに比べて、約35%も多く食べてしまったことが報告されています。
もう少し規模の大きい検証としては、Kaur, Scarborough & Rayner(2017)による系統的レビュー・メタ解析(複数の研究結果をまとめて統計的に分析する研究)があります。17件の研究をまとめた結果、健康や栄養についての強調表示がある食品は、表示のない同じ食品に比べて、買われたり食べられたりする可能性が明らかに高いことが示されました(オッズ比1.75、95%信頼区間1.60〜1.91。オッズ比は数字が1より大きいほど「表示があると起こりやすい」ことを意味します。95%信頼区間は、本当の効果がだいたいこの範囲に収まっていると考えられる、統計的な目安の幅のことです)。ただし、この研究では、こうした結果の多くが実験室のような人工的な環境で得られたものであり、実際の生活の中で行われた研究では、もっと小さい効果しか確認されていない、という限界も書かれています。
この知見を「ゼロカロリー」表示に当てはめると、次のようなことが起こりうると考えられます。「ゼロだから」という安心感から、普段より多く飲んでしまったり、他の食事で気が緩んでしまったりする、というものです。表示されている数値自体は正しくても、それを見た人の行動が変わってしまえば、期待した通りの結果にはならないかもしれません。
5. 人工甘味料自体はダイエットに効果があるのか
ここまで、「ゼロ」という表示の法律上の意味、その裏にある甘味料の安全性、そして表示が私たちの行動に与える影響について見てきました。最後に残る疑問は、「そもそも人工甘味料を使うこと自体に、ダイエット効果はあるのか」というものです。
これは「安全に使えるかどうか」とはまったく別の問題です。安全だと確認されていることと、体重を減らす効果が確実にあることは、イコールではありません。
この疑問については、短期的な研究と長期的な研究で結果が違うことや、2023年のWHOガイドラインの内容など、扱うべき情報が多いので、別記事「人工甘味料はダイエットに効果的?最新エビデンスを整理」で詳しく検証しています。先に結論だけお伝えすると、人工甘味料は「魔法の減量ツール」ではなく、食事全体のバランスを整えるための選択肢の一つに過ぎない、というのがその記事での結論です。気になる方は、あわせて読んでみてください。
まとめ
「ゼロカロリー」表示について、ここまでの内容を整理すると、次のようになります。
まず、法律上の「からくり」として、「ゼロ」は食品表示基準で「100gまたは100mlあたり5kcal未満」と決められているだけで、「絶対に0kcal」ということを保証しているわけではありません。これは違法でも誇大表示でもなく、正式なルールに沿った表示です。
一方で、その表示を支える甘味料自体については、食品安全委員会によるリスク評価と、国が行った実際の摂取量調査の両方から見て、普段の食生活の範囲であれば健康上の心配は見つかっていません。
そしてもう一つ、心理的な「からくり」として、「ゼロ」という表示を見ること自体が、安心感から食べ過ぎ・飲み過ぎにつながる可能性がある、という指摘もあります。表示の数字が正確でも、私たちの行動がその効果を打ち消してしまうことがあるのです。
「ゼロ」という言葉をそのまま信じ込むのではなく、時には商品裏側の栄養成分表示にも目を通し、自分がどれくらいの量を口にしているかを意識してみる。それが、表示に振り回されないための第一歩になるはずです。
参考文献
- 消費者庁「食品表示基準」(平成27年内閣府令第10号)第7条・別表第13:e-Gov法令検索
- 消費者庁「栄養成分表示及び栄養強調表示とは」:PDF
- 食品安全委員会「アスパルテームに関するQ&A」:食品安全委員会
- 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会「令和元年度マーケットバスケット方式による甘味料の摂取量調査の結果について」(令和2年10月14日):PDF
- 消費者庁 食品衛生基準審議会添加物部会資料「WHOの非糖質甘味料の使用に関するガイドラインと国内における非糖質甘味料の摂取量推計について」(令和6年11月28日):PDF
- Provencher V, Polivy J, Herman CP. Perceived healthiness of food. If it’s healthy, you can eat more! Appetite. 2009;52(2):340-344.:PubMed
- Kaur A, Scarborough P, Rayner M. A systematic review, and meta-analyses, of the impact of health-related claims on dietary choices. Int J Behav Nutr Phys Act. 2017;14:93.:DOI
内部リンク:人工甘味料はダイエットに効果的?最新エビデンスを整理

