低脂肪ダイエットは効果があるのか
この記事で扱う「低脂肪ダイエット」とは、食事に含まれる脂質の量そのものを減らすやり方のことです。脂質の種類を見直す方法については、病気の予防という観点から参考情報として別途触れていきます。
あわせて、「体重が減るかどうか」と「病気にかかりにくくなるかどうか」も分けて考えます。研究によって、どちらを検証したものかが異なるためです。
この2つの軸を意識しながら、信頼できる研究をもとに整理していきます。
脂質の量を減らす最大級の研究
低脂肪ダイエットの効果を考えるうえで欠かせないのが、Women’s Health Initiative(WHI)という大規模な試験です。
この試験では、閉経後の女性48,835人を、脂質の摂取量を食事全体の20%まで減らすグループと、いつもどおりの食事を続けるグループにくじ引きで振り分け、8.3年にわたって追跡しました(Howard et al., 2006, JAMA; Prentice et al., 2007, Am J Clin Nutr)。
ここで知っておきたいのは、この試験がもともと乳がんと大腸がんの予防効果を確かめるために設計されたものだという点です。体重の変化は、その途中で一緒に観察されていた項目のひとつにすぎません。
体重は減ったのか
低脂肪グループと通常食グループを比べたところ、体重には長期的にほとんど差がありませんでした。介入の初期には低脂肪グループでわずかに体重が減っていましたが、期間が長くなるにつれてその差はなくなっていきました。
病気の予防効果はあったのか
本来の目的だった乳がん・大腸がんの発症率にも、両グループの間で統計的な差は見られませんでした。追加で調べられていた心臓病・脳卒中などの心血管疾患についても、同じく明確な差は出ていません。
WHIは参加人数・調査期間ともに、この分野では異例の規模の試験で、栄養に関する研究のなかでも特によく引用されるもののひとつです。この結果は、「脂質の量を減らすこと」自体が減量や病気の予防に直結するわけではない、という見方を裏付ける大きな根拠になっています。
脂質の質を変える研究
ここで扱うのは「脂質の量」ではなく「飽和脂肪酸」を減らすことについての研究です。体重への効果ではなく、心血管疾患と死亡率への影響を調べたものである点にご注意ください。
Cochraneによるこのレビューでは、56,000人を超える参加者を対象にした15件のランダム化比較試験がまとめて分析されています(Hooper et al., 2020, Cochrane Database of Systematic Reviews)。その結果、飽和脂肪酸の摂取を減らすことで、心臓病や脳卒中を含む心血管疾患のリスクが17%下がることがわかりました。一方で、原因を問わない死亡率全体への影響ははっきりとは確認されませんでした。
Cochraneのレビューは、分析の手順が厳格なことで知られています。この分野を代表する研究グループであるHooperらは、2000年以降このテーマで何度もレビューを更新し続けており、その意味でこのレビューは、飽和脂肪酸と心血管疾患の関係について現時点でもっとも信頼できるエビデンスのひとつと言えます。
ただし繰り返しになりますが、これは「脂質の量を減らす」ことの効果ではなく、「脂質の種類を変える」ことの効果を示したものです。
公的機関はどう見ているか
低脂肪ダイエットについて、公的な機関はどのような立場をとっているのでしょうか。ここで紹介する3つの機関は、それぞれ違う目的から脂質の摂取比率について言及しています。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(生活習慣病の予防が目的)
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」にある「目標量」とは、生活習慣病を予防するために、今の日本人が目指すべき摂取量として定められたものです。2020年版・2025年版のどちらも、脂質の目標量は食事全体の20〜30%とされています。これは、飽和脂肪酸をとりすぎないようにしつつ、体に必要な必須脂肪酸が不足しない範囲として設定されたものです。
これはあくまで生活習慣病を予防するための目安であり、「減量のために脂質を控えるべきだ」ということを直接述べたものではありません。
ACSM(米国スポーツ医学会)Position Stand(減量のための言及)
ACSMが2001年に出した減量に関する声明(Jakicic et al., 2001)では、1日あたり500〜1,000kcalのエネルギー不足を、食事全体の摂取量を減らすことで作ることが勧められています。その方法のひとつとして、脂質の摂取を食事全体の30%未満に抑えることが、食事全体のカロリーを減らすのに役立つ可能性がある、とされています。
これは「脂質を減らすこと自体」を目的とした主張ではなく、脂質はほかの栄養素よりカロリーが高いため、抑えることでカロリー管理がしやすくなる、という位置づけです。なお、この声明は2001年のものが中心で、ACSMは2024年にも体重管理に関する声明を更新していますが、そちらは主に運動量についての内容です。別の声明(2009年、運動と栄養について)では、脂質の摂取量の目安を食事全体の20〜35%としています。
ISSN(国際スポーツ栄養学会)(カロリー収支を重視)
ISSNの声明では、脂肪を減らすことを目的としたダイエットは、継続的にカロリーが足りない状態を作ることで成り立つ、という立場がとられています。低脂肪か低炭水化物かといった栄養素の比率そのものよりも、カロリー収支と、それを無理なく続けられるかどうかを重視する姿勢がうかがえます。
まとめると
厚生労働省の指針が生活習慣病の予防を目的としているのに対し、ACSMとISSNはどちらかというと減量の文脈で脂質の比率に触れています。ただし3つの機関に共通しているのは、「低脂肪ダイエットそのもの」を強力な減量法として勧める声明は見当たらない、という点です。
まとめ
ここまでの内容を整理すると、次のように言えます。
体重を減らす効果については、脂質の量を減らすこと自体に優位性があるという強い根拠は乏しいのが実情です。WHI試験では低脂肪グループと通常食グループで長期的な体重の差はほとんど見られず、低脂肪食と低炭水化物食を比べたメタアナリシスでも、指導の強さをそろえると差は縮まる傾向にあります。
病気の予防効果については、脂質の「量」よりも「質」、つまり飽和脂肪酸を減らすことの方が、心血管疾患のリスクとの関連がより明確に示されています(Cochraneレビューより)。ただし、これが死亡率全体にまで影響するかどうかは、まだはっきりした結論が出ていません。
公的機関の立場もひとつではありません。厚生労働省の指針は生活習慣病の予防が目的で、ACSMやISSNは減量の文脈でも脂質の比率に触れてはいますが、どちらも「低脂肪ダイエット」を単独の強力な減量法として勧めてはいません。
こうして見ると、「とにかく脂質を減らせば痩せる」という単純な考え方は、今の研究の積み重ねからはあまり支持されていないようです。減量の本質はカロリー収支にあり、脂質については量よりも種類に目を向けた方が、健康面でのメリットは大きいのかもしれません。
参考文献
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- Prentice RL, et al. Low-fat dietary pattern and cancer incidence in the Women’s Health Initiative Dietary Modification Randomized Controlled Trial. J Natl Cancer Inst. 2007;99(20):1534-1543. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17925539/
- Prentice RL, et al. Low-fat dietary pattern and cardiovascular disease: results from the Women’s Health Initiative randomized controlled trial. Am J Clin Nutr. 2017;106(1):35-43. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28515068/
- Hooper L, Martin N, Jimoh OF, Kirk C, Foster E, Abdelhamid AS. Reduction in saturated fat intake for cardiovascular disease. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2020;8:CD011737. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32428300/(一般向け要約:Cochrane公式サマリー)
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- 厚生労働省.「日本人の食事摂取基準(2020年版)」「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
- Jakicic JM, Clark K, Coleman E, et al. Appropriate intervention strategies for weight loss and prevention of weight regain for adults. Med Sci Sports Exerc. 2001;33(12):2145-2156. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14711070/
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