「ゆっくり食べると満腹感が上がる」って、本当?
「早食いはよくない」「ゆっくり食べると、満腹感を感じやすくなる」——よく聞く話ですよね。でも、これをちゃんと調べた研究を見てみました。
結論を言うと、早食いをやめると「食べる量」が減ることは、複数の研究でわかっています。でもそれは、「満腹感を強く感じるようになるから」ではありません。この記事では、実際に測られたデータをもとに、その理由を解説していきます。
「早食いをやめる」と食べる量が少なくなる
食べる速さと食事量の関係を調べた、研究の一つがこちらです。
Robinson E, et al. “A systematic review and meta-analysis examining the effect of eating rate on energy intake and hunger.” American Journal of Clinical Nutrition, 2014.
これは、食べる速さを変えた22件の実験をまとめて分析した研究です。結果、ゆっくり食べたグループのほうが、食べる量そのものが少なくなることがわかりました。しかも、「ゆっくりのペースが極端であればあるほど、食べる量もより減る」という傾向も見られています。
ここで大事なのが、もう一つの結果です。「食べ終わった直後」も「食後2〜3.5時間後」も、満腹感・空腹感の自己申告には、食べる速さによる違いはありませんでした。
つまりこの研究が教えてくれているのは、「ゆっくり食べると満腹感を強く感じられるようになる」という感覚の変化ではなく、「感じ方は同じでも、実際に食べる量そのものが自然と減る」ということです。
ちなみに、食後1時間だけに限れば「ゆっくり食べたほうが満腹感が高かった」という研究もあります(Karl JP, et al. Appetite, 2013)。ただしこれは1件だけの研究で、先ほどの22件をまとめた分析とは食い違う部分もあるので、あくまで参考程度に留めておくのがよさそうです。
そもそも「満腹感」って、どうやって測っているの?
ここで一つ、知っておくと理解が深まる前提があります。研究で「満腹感」を測るときは、VAS(視覚的アナログスケール)という、線の上に印をつけて自分の感覚を答える方法がよく使われます。この分野でとくによく引用される研究がこちらです。
Flint A, Raben A, Blundell JE, Astrup A. “Reproducibility, power and validity of visual analogue scales in assessment of appetite sensations in single test meal studies.” International Journal of Obesity, 2000.
この研究では、55人の健康な成人男性に協力してもらい、食事の前から食後4.5時間まで、30分おきに「今どれくらい満腹か」を答えてもらっています。この測り方自体が、満腹感というものが「一瞬でパッと完成する感覚」ではなく、何時間もかけて、少しずつ変わっていく感覚であることを表しています。
先ほどのRobinsonの研究で「食べ終わった直後」も「2〜3.5時間後」も違いが出なかったことからも、満腹感はどのタイミングで測っても、食べる速さだけではあまり動かない感覚なのかもしれません。
補足:体の中のホルモンとの関係
満腹感には、CCK・GLP-1・PYYといった、消化にかかわるホルモンも関係していると考えられています(Steinert RE, et al. Physiological Reviews, 2017)。ただしこれらのホルモンは、それぞれタイミングがバラバラです。たとえばCCKは食後10分くらいで早めにピークを迎える一方、PYYは食後60分くらいにかけてゆっくり増えていく、といった具合です。なので、どれか一つのホルモンだけで「満腹感が何分でくるか」を説明することはできません。
さらに、これらホルモンの血中の量と、実際に本人が感じる満腹感が、きちんと連動しているかどうかも、実は研究によって結果がバラバラです。関係があったという報告もあれば、8週間の減量プログラムを調べた研究のように、関係が見られなかったという報告もあります。なので「ホルモンの量=満腹感」と単純に結びつけて考えるのは、まだ早いといえます。この記事では、あくまで参考情報として軽く触れるにとどめます。
まとめ
- 「ゆっくり食べると満腹感を強く感じるようになる」という話は、22件の研究をまとめた分析(Robinson 2014)では確認されませんでした。
- 実際に確認されているのは、「早食いをやめると、感じ方は同じでも、食べる量そのものが自然と減る」ということです。
- 満腹感は一瞬で完成するものではなく、何時間もかけてゆっくり変わっていく感覚です。
- 体内のホルモンも関係していると考えられていますが、実際に感じる満腹感との対応関係は、まだはっきりわかっていません。
「早食いをやめましょう」というアドバイス自体は、データからも支持できます。ただ、その理由を「満腹感を強く感じるようになるから」と説明するのは、今のところ少しずれています。正確に言うなら——「感じ方は変わらなくても、食べる量が自然と抑えられる」。これが、実際のデータに基づいた、より正しい言い方です。
参考文献
- Robinson E, Almiron-Roig E, Rutters F, et al. A systematic review and meta-analysis examining the effect of eating rate on energy intake and hunger. Am J Clin Nutr. 2014;100(1):123-151.
- Karl JP, Young AJ, Montain SJ. Does eating slowly influence appetite and energy intake when water intake is controlled? Appetite. 2013;68:9-14.
- Flint A, Raben A, Blundell JE, Astrup A. Reproducibility, power and validity of visual analogue scales in assessment of appetite sensations in single test meal studies. Int J Obes Relat Metab Disord. 2000;24(1):38-48.
- Steinert RE, Feinle-Bisset C, Asarian L, Horowitz M, Beglinger C, Geary N. Ghrelin, CCK, GLP-1, and PYY(3-36): Secretory Controls and Physiological Roles in Eating and Glycemia in Health, Obesity, and After RYGB. Physiol Rev. 2017;97(1):411-463.

