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「痩せ薬」を使っても運動は必要? 世界のスポーツ医学会が出した答え

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むー

最近、週に1回の注射を続けることで大きく痩せられる薬(セマグルチドやチルゼパチドなど)が話題になっています。「これだけ効くなら、もう運動しなくていいのでは?」と思った人も多いのではないでしょうか。

この疑問に、アメリカスポーツ医学会(ACSM)という世界的に権威のある専門家団体が、2024年に発表した報告書の中ではっきりと答えを出しています。今回は、その内容をできるだけわかりやすくお伝えします。

どんな報告書なの?

今回参考にしたのはこちらの論文です。

Jakicic JM, Apovian CM, Barr-Anderson DJ, ほか. 「成人の過体重・肥満に対する身体活動」. Medicine & Science in Sports & Exercise誌. 2024年.

10人の専門家が力を合わせてまとめた報告書で、体重管理の研究者だけでなく、肥満治療の医師や、手術の専門医なども参加しています。2001年、2009年、2019年と何度か改訂されてきた内容の、いわば「最新版」にあたります。

ちなみに日本の厚生労働省も、2024年に運動に関する新しいガイドラインを出しています。「1日60分以上体を動かす」「そのうち週60分は汗をかく程度の運動をする」「筋トレを週2〜3日」という内容で、数字の出し方は違うものの、「運動はやっぱり大事」という方向性はACSMと同じです。この厚労省ガイドについてはこちらの記事で詳しく紹介しているので、気になる方はぜひ読んでみてください。

なお、この報告書は、あらゆる研究を機械的にふるいにかけて結論を出す「システマティックレビュー」という厳密な形式ではなく、専門家たちが話し合って合意した内容をまとめたものです。また、著者の中には製薬会社から資金提供を受けている方も含まれています(論文の最後にきちんと開示されています)。とはいえ、専門家団体が出す公式な見解として、現時点でもっとも参考になる情報のひとつであることに変わりはありません。

「週150分」ってどういうこと?

報告書のいちばん基本的な結論はこうです。

少しずつ運動量を増やしていき、最終的に週150分以上の「そこそこ頑張る運動」ができると、体重減少や体重の維持にいちばん効果が出やすい。

「そこそこ頑張る運動」とは、具体的には次のようなものです。

  • 早歩き(息が少し弾むくらいのスピード)
  • 軽いジョギング
  • 自転車での通勤・サイクリング
  • 水泳(ゆっくりめのペース)
  • テニスやバドミントン(ダブルス)
  • 掃除機がけや庭仕事など、体を大きく動かす家事

目安としては、「会話はできるけれど、鼻歌を歌うのは少し苦しい」くらいの強度です。1日30分を週5日行えば、ちょうど週150分になります。

そして、運動量を増やせば増やすほど効果も大きくなる傾向があります。

ただし、「たくさんやればやるほどいい」というわけでもなさそうです。以前は「体重を維持するには週200〜300分の運動が必要」と言われてきましたが、実際に人を対象にした実験で確かめてみると、週150分の運動と週300分の運動とで、効果にはっきりした差が出なかったという報告もあります。

つまり、まずは「週150分」を目標にして、それでも物足りなければ量を増やしていく、という進め方がよさそうです。

「痩せ薬」を使っていても運動が大事な理由

ここが今回の報告書でいちばん興味深いポイントです。

セマグルチドという薬は、平均で体重の約15%を減らす効果があります(薬を使わない場合は約2%)。チルゼパチドという薬はさらに強力で、約21%も体重が減るという報告があります。

とても効果的な薬ですが、ひとつ気をつけたいことがあります。それは、体重と一緒に筋肉も落ちてしまうということです。ふつうの食事制限だけで痩せた場合でも、減った体重のうち15〜25%くらいは筋肉などの「除脂肪量」だと言われています。薬でこれだけ大きく体重が落ちるなら、筋肉の減少もそれなりに心配されるところです。

この点を調べたおもしろい研究があります。まず食事制限だけで平均13.1kg痩せた人たちを、次の4つのグループに分けて1年間観察しました。

グループ1年後の体重の変化
何もしない+6.1kg(かなりリバウンド)
運動だけ+2.0kg(あまり差がない)
薬だけ-0.7kg(あまり差がない)
薬+運動-3.4kg(しっかり追加で減った)

薬だけ、運動だけでは大きな効果が見られなかったのに、薬と運動を組み合わせたグループだけが、はっきりとした追加の減量効果を示しました。さらに、心肺機能(体力)も、薬+運動のグループだけがしっかり向上していました。

つまり「薬を使っているから運動はいらない」のではなく、「薬の効果を長く保ち、薬だけでは得られない体力アップのために、運動が力を発揮する」というのが、今のところ言えそうなことです。

ただし正直なところ、「運動が薬の効果を後押しする」という研究はまだ数が少なく、「運動が筋肉の減少を防いでくれる」という証拠もまだ十分ではありません。過度な期待は禁物ですが、少なくとも「運動は不要」という結論には至っていない、ということは言えそうです。

HIIT(高強度インターバル)は本当に最強?

SNSなどで「HIITがいちばん効率よく痩せる」という話をよく見かけますが、この報告書の結論はちょっと違います。

そもそもHIIT(ヒット)とは、「高強度インターバルトレーニング」の略で、きつい運動と、休憩(またはゆるい運動)を交互に繰り返すトレーニング方法です。たとえば「20秒間全力でスクワットジャンプ→10秒休憩」を8セット繰り返す、といったものが代表的です。短時間でしっかり息が上がるのが特徴で、「4分間だけで効果がある」といった紹介のされ方をよくします。

HIITは、体重や体の変化という面では、普通のペースでコツコツ続ける運動より特別優れているわけではない、とされています。(ただし、もともと体重が多めの人では、HIITによる体の変化がより大きく出る可能性もあるので、無理なくできる人には選択肢のひとつにはなります。)

忙しくてハードな運動の時間が取れない人には嬉しい話もあります。軽い運動でも、消費するエネルギーさえ十分であれば、代わりになりうるとされています。ただし、同じだけのエネルギーを消費するには、その分長い時間が必要になります。

運動しても思ったより痩せないのはなぜ?

「運動しているのに全然体重が減らない」と感じたことがある人は多いと思います。これにも理由があります。

運動を続けると、消費したカロリーのうち、平均で約3割くらいが、食欲が増えることで相殺されてしまう傾向があることがわかっています。1回だけの運動なら、その日は食欲が増えることはあまりないのですが、運動を習慣として続けていくと、少しずつこの「帳尻合わせ」が起きてくるようです。

おもしろいのは、日頃からよく運動している人ほど、食べる量と消費する量のバランスがうまく取れるようになる可能性がある、という点です。つまり、運動を続けること自体が、長い目で見れば食欲のコントロールをうまくする方向に働くかもしれません。ただし、これには個人差がかなり大きいことも報告書は強調しています。

じゃあ結局、何をすればいいの?

この報告書がすすめているのは、「これが一番」という単一の運動を探すことではありません。いろいろな種類の運動を組み合わせることです。

  1. 有酸素運動(ウォーキング、ジョギングなど):体力アップ
  2. 筋トレ:筋肉の量と力を保つ
  3. ヨガのような運動:体の柔軟性やバランス感覚を養う
  4. バランス運動:転倒を防ぎ、安全に動けるようにする

薬や手術で痩せることが当たり前になりつつある今だからこそ、「体重を減らす」ことだけでなく「筋肉と体力を保ちながら、健康的に痩せる」という視点で運動をとらえることが、これまで以上に大事になってきていると言えそうです。


参考文献

Jakicic JM, Apovian CM, Barr-Anderson DJ, Courcoulas AP, Donnelly JE, Ekkekakis P, Hopkins M, Lambert EV, Napolitano MA, Volpe SL. Physical Activity and Excess Body Weight and Adiposity for Adults: American College of Sports Medicine Consensus Statement. Med Sci Sports Exerc. 2024;56(10):2076-2091.

厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要). 2024年1月.

Lundgren JR, Janus C, Jensen SBK, et al. Healthy weight loss maintenance with exercise, liraglutide, or both combined. N Engl J Med. 2021;384(18):1719-1730.

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