現代人はなぜ太るのか?研究データから見る4つの理由
「最近太ってきたのは、自分の意志が弱いせいだろうか」——そう感じたことはありませんか。でも実は、肥満が増えている理由を「意志の弱さ」だけで説明するのは正しくありません。
厚生労働省も、肥満の主な原因は遺伝ではなく、食生活や体を動かす量など、暮らしの環境が変わったことにあるという考え方を示しています。この記事では、厚労省が挙げるこの2つの理由に加えて、最近の研究でわかってきた「睡眠不足」と「体内時計の乱れ」も合わせて、現代人が太りやすい理由を4つに分けて紹介します。あわせて、これらとは少し違うタイプの理由として、ストレスによる食べ過ぎについても触れます。
なお、この記事で扱うのは環境や体のしくみに関わる理由だけです。遺伝的な体質の違いや、病気による体重増加は対象にしていません。
1. 食べ物を取り巻く環境の変化
厚労省が挙げる「食習慣の変化」の背景には、私たちの周りにある食べ物そのものの変化があります。
2011年、Swinburnさんたちの研究グループは、医学雑誌Lancetで、加工食品が手に入りやすくなったこと、一人前の量が増えたこと、食品の広告が増えたことなど、食品を取り巻く仕組みそのものの変化が、世界的な肥満増加の土台になっていると発表しました。
この考え方を、実験で裏づけたのがHallさんたちによる2019年の研究です。この研究では、参加者に病院に入院してもらい、超加工食品(市販のお菓子や冷凍食品のような加工度の高い食品)中心の食事と、加工していない食品中心の食事を、それぞれ2週間ずつ、好きなだけ食べてもらいました。すると、超加工食品中心の食事のときは、1日あたり平均508kcalも多く食べてしまうことがわかったのです。
これは、参加者の意志が弱かったからではありません。同じ人が、食事の中身を変えただけで、食べる量が大きく変わったのです。つまり、今の食べ物を取り巻く環境そのものが、私たちに「気づかないうちに食べ過ぎさせる」つくりになっている可能性があります。
2. 日常の中で自然に動く量(NEAT)の減少
厚労省が挙げるもう一つの理由、「体を動かす量の減少」について、もう少し具体的に教えてくれるのが「NEAT(ニート)」という考え方です。NEATとは、運動のように意識して体を動かすのではなく、立つ・歩く・家事をするといった、日常のちょっとした動きで消費されるエネルギーのことです。
1999年、Levineさんたちは、NEATがどれだけ大事かを示す実験結果を医学雑誌Scienceで発表しました。参加者に、8週間にわたって1日1,000kcal多く食べてもらったところ、太り方には大きな個人差が出ました。そして、その差はNEATがどれだけ増えたかと強く関係していたのです。つまり、同じだけ食べ過ぎても、無意識に体をよく動かせる人は太りにくく、そうでない人は太りやすいということです。
では、そのNEATは実際にどう変わってきたのでしょうか。Churchさんたちが2011年に発表した研究では、この50年間で、仕事にともなって消費するエネルギーが1日100kcal以上も減っていることがわかりました。デスクワークが増え、機械化が進んだことで、「働くこと」自体で使うエネルギーが着実に減っているのです。
これは単なる「運動不足」というより、日常生活の中で体を動かす量そのものが、社会全体の仕組みとして減っているということです。
3. 睡眠不足
睡眠不足と肥満の関係については、Cappuccioさんたちが2008年に発表した研究(多くの研究をまとめたメタ分析という手法によるもの)がよく参照されます。この研究では、睡眠時間が短いことと肥満のリスクが高いことの間に、しっかりした関係があることが示されました。
この関係の理由としてよく言われるのが、「睡眠不足が、食欲を調整するホルモン(レプチンとグレリン)のバランスを崩す」という説明です。ただ、ここは慎重に見る必要があります。2025年に発表された、複数の実験(ランダム化比較試験)をまとめた研究では、実際に睡眠を制限してみても、レプチンやグレリンの値には統計的にはっきりした変化が見られなかったと報告されているのです。
つまり、「睡眠時間が短い人ほど肥満になりやすい」という関係そのものはしっかりしている一方で、その裏にあるとされてきたホルモンの仕組みについては、研究者の間でもまだ意見が分かれているということです。この記事では、「関係があること」と「仕組みがまだはっきりしていないこと」を分けてお伝えします。
4. 体内時計の乱れ
体内時計(1日のリズムを刻む体のしくみ)の乱れも、最近注目されている理由の一つです。
Liuさんたちが2018年に発表したメタ分析では、日勤と夜勤を繰り返すローテーション勤務の人で、肥満のリスクが約16%高いことがわかりました。同じ年に発表されたSunさんたちの研究では、働き方によってさらに細かい違いが調べられていて、ローテーション勤務の人ではリスクが14%高いのに対し、ずっと夜勤の人では43%も高いという結果でした。夜勤で働く人全体で見ても、肥満のリスクは23%、お腹まわりの肥満に限ると35%高いという結果です。
なお、ローテーション勤務のリスク上昇が、Liuさんたちの研究では16%、Sunさんたちの研究では14%と少し違うのは、対象にした研究の集め方や分析の仕方が違うためです。どちらかが間違っているわけではなく、同じ傾向を示す2つの独立した研究として、補い合うように読むのが妥当です。
なぜ体内時計の乱れが体重に影響するのか、その仕組みを調べた研究として、Scheerさんたちの2009年の実験があります。ただしこの実験は参加者がわずか10人という小規模なもので、測定したのは血糖値や血圧、レプチンといった体の状態を示す数値であり、体重や肥満そのものを直接調べたわけではありません。あくまで参考程度に捉えてください。
夜勤のような極端な働き方でなくても、平日と休日で寝る時間・起きる時間が大きくずれる「ソーシャルジェットラグ」と呼ばれる状態でも、同じような影響が出る可能性が指摘されています。
コラム:ストレスによる食べ過ぎ
ここまで紹介した4つの理由とは少しタイプが違いますが、ストレスによる食べ過ぎも、現代人の体重増加を考えるうえで見逃せない視点です。ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されたり、脳の「報酬系」と呼ばれる部分が働いたりすることで、高カロリーな食べ物への欲求が強まることがわかっています。
このテーマについては、コルチゾールと食欲の関係を研究データから詳しく解説した記事を別に用意していますので、詳しくはそちらをご覧ください。
ストレスで食べ過ぎてしまうのはなぜ?コルチゾールと食欲の関係を一次文献から解説
5. ここまでの内容についての注意点
ここまで紹介してきた4つの理由は、どれも「関係がある」ということを示すものであり、体重が増えるか減るかを絶対的に決めてしまう法則ではありません。同じ環境にいても太りやすい人と太りにくい人がいるように、生まれ持った体質の違いなども無視できません。
また、肥満の理由としてよく話題になる「腸内細菌のバランスの変化」や、「環境中の化学物質(内分泌かく乱物質)」については、今回はあえて取り上げませんでした。これらは複数の研究レビューで「人間での因果関係を示すデータはまだ少なく、主に動物実験による知見にとどまる」と指摘されているためです。
なお、ストレスによる食べ過ぎを、本編の4つの理由ではなくコラムという形で扱ったのも、同じ考え方によるものです。4つの理由は、食べ物の入手しやすさや働き方、睡眠、体内時計など、個人の意識とは関係なく外側から働きかけてくる環境的な条件です。それに対して、ストレスへの反応の強さや、その対処のしかたは、個人によってかなり差があります。この「外側の環境要因かどうか」という違いから、本編とは分けて紹介しています。
6. まとめ:今日からできること
環境の影響が大きいからといって、自分でできることが何もないわけではありません。環境の変化を知ったうえで、それに対抗する行動を選ぶことには十分意味があります。
NEATを増やす工夫としては、エレベーターではなく階段を使う、通勤で一駅分歩く、こまめに立ち上がるなど、運動という形をとらない日常の動きを増やすことが挙げられます。大がかりに生活を変える必要がない分、続けやすいのが利点です。
一方、しっかりした運動については、米国スポーツ医学会(ACSM)が2009年に示した目安が参考になります。それによると、週150〜250分程度の、少し息が上がる程度の運動をすると体重増加を防ぐのに効果的で、週225〜420分まで増やすと2〜3kg以上の減量効果が期待できるとされています。これはNEATとは別の、意識して行う運動としての目安です。
睡眠については、ホルモンの仕組みがまだはっきりしていなくても、しっかり睡眠時間を確保すること自体が、肥満のリスクを下げることと関係していると考えてよさそうです。
体内時計については、働き方を自分で選べないこともありますが、できる範囲で寝る時間・起きる時間を一定に保つことが、ソーシャルジェットラグを減らすことにつながる可能性があります。
そして、ストレスによる食べ過ぎが気になる方は、コラムでも触れたコルチゾールと食欲の関係についての記事も、ぜひあわせて読んでみてください。
参考文献
- Swinburn BA, et al. The global obesity pandemic: shaped by global drivers and local environments. Lancet. 2011. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(11)60813-1
- Hall KD, et al. Ultra-Processed Diets Cause Excess Calorie Intake and Weight Gain. Cell Metabolism. 2019. https://doi.org/10.1016/j.cmet.2019.05.008
- Levine JA, et al. Role of Nonexercise Activity Thermogenesis in Resistance to Fat Gain in Humans. Science. 1999. https://doi.org/10.1126/science.283.5399.212
- Church TS, et al. Trends over 5 Decades in U.S. Occupation-Related Physical Activity and Their Associations with Obesity. PLoS One. 2011. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0019657
- Cappuccio FP, et al. Meta-Analysis of Short Sleep Duration and Obesity in Children and Adults. Sleep. 2008. https://doi.org/10.1093/sleep/31.5.619
- Liu Q, et al. Is shift work associated with a higher risk of overweight or obesity? A systematic review and meta-analysis. International Journal of Epidemiology. 2018. https://doi.org/10.1093/ije/dyy079
- Sun M, et al. Meta-analysis on shift work and risks of specific obesity types. Obesity Reviews. 2018. https://doi.org/10.1111/obr.12621
- Scheer FA, et al. Adverse metabolic and cardiovascular consequences of circadian misalignment. PNAS. 2009. https://doi.org/10.1073/pnas.0808180106
- The Impact of Sleep Deprivation on Hunger-Related Hormones: A Meta-Analysis and Systematic Review. Nutrients (MDPI). 2025. https://www.mdpi.com/2673-4168/5/2/48
- American College of Sports Medicine (Donnelly JE, et al.). Appropriate Physical Activity Intervention Strategies for Weight Loss and Prevention of Weight Regain for Adults. Med Sci Sports Exerc. 2009. https://doi.org/10.1249/MSS.0b013e3181949333
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-001.html

